日時 | 2025年8月22日(金)14:30~16:30 |
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場所 |
りそなプライベートサロンReラグゼ 大阪府大阪市北区角田町8-1(大阪梅田ツインタワーズ・ノース24階) |
講師 | 前ウクライナ駐在日本大使 松田 邦紀様 |
テーマ | 日本大使が観た、戦時下のウクライナ社会 |
鷲尾所感
関西アジア倶楽部の第81回「大使として観た、戦時下のウクライナ」、前ウクライナ駐在日本大使・松田邦紀さんの話、いかがでしたか…。
ウクライナにとって、今回のロシアの侵攻は、ナチス・ドイツとソ連(当時)の戦争の終結過程で未解決として残された潜在課題に、当のロシアが軍事力で介入してきた…。他方、これをロシアの側から見れば、ウクライナは建国時からの兄弟国。それが事もあろうに、ロシアにとって脅威となるNATO入りを目指して、西側にすり寄っている…。
かくして、ロシアのウクライナ侵攻は、自国の安全保障を強固にするため…。対して、ウクライナの反抗は自己の生存のため…、という構図が鮮明になる。
故に、ウクライナにとっては、この侵略に、完全な手打ちが出来なければ、今後とも、ロシアと永く対峙する羽目になるのは確実。だからこそ、満足の行く、完全な停戦でなければ意味がない。松田さんのご説明は、そんな事どもを、強く印象付ける説明だったように、小生には思われました。
松田大使は、戦闘と戦争とは違う、とも指摘されました。
戦争には究極の目的がある。対して、戦闘は文字通りの眼前の戦い。その戦闘も、今回のウクライナ戦争では、20世紀型の戦闘(火力と共に兵隊が動き、言い換えると戦車・装甲車・兵隊が一対となって動く)をロシアが採用しているのに対し、ウクライナの方は21世紀型の戦闘(“若い技術者”が遠隔地から、一人で100以上のドローンを縦横に操り、個々のロシアの戦車やオートバイに乗ったロシア兵を狙い撃ちにしている等など)。
為に、ロシア軍の人員の消耗はおびただしく、亦、ウクライナ軍のドローンが、ロシアの領土の奥深く侵攻し、さすがに軍事基地を破壊することは難しくても、石油基地などに多大な被害を与えることに成功している。
だから、ロシアがウクライナの東部諸州をかなり占有しているとはいっても、そのための犠牲も膨大で、巷間伝わるように、それをもってウクライナが一方的に不利化していると判じるのは、必ずしも真実ではない。
少し誇張すれば、ウクライナはドローンの力で、黒海ではロシア艦隊を制圧、空の戦いでも、ロシア領奥深くドローン攻撃をし仕掛け、軍需工場や製油所、それに軍事基地の一部に大きな打撃を与えている。
それ故、ロシアの戦費は膨大に膨れ上がり、諸々のひずみがロシア社会に浮かび上がっている(例えば、軍隊に動員するにも、シベリアや各地の少数民族がもっぱら徴兵されているとか、貧しい階層を重点的に兵補充の対象にしているとか等など)。
勿論、そうした見方には、立場上どうしてもウクライナ側に立つ、そんな前駐ウクライナ大使のお立場もあったのかもしれませんが…。
色々なことが勉強になりました。戦時下のDX普及の仕方等がその一例。空襲下でも行政が機能するよう、DXを取り入れようとし、最初は軍にそれを行わせようとしたがなかなか進まない。
そこで方針を一変、若い、技術のわかる人間たちに、その導入を任せると、見事成功。今や、ロシアのミサイル攻撃で家屋を失った市民が、DXを使って行政当局に報告すると、瞬時に補償金が電子マネーで送られてくる等など。
そんな場合、もしその申告が偽であったらどうするかとの問いに、ウクライナの担当者は明瞭に、「戦時下の被害補償が第一」と応え、「但し、戦争が終わったら、個々の申告を精査し直し、偽の申告には、徹底的な追及が待っている」とのことらしい。
こんなやり取りにも、戦争下で政府の力が強い時だからこそ、DXも急速に普及させ得た実態が伺えるのではないでしょうか…。
亦、戦後の復興に関しても、「戦時中の協力なくして、戦後の復興需要なし」、の原則が明瞭で、その尺度で言えば、中国はもちろん駄目、インドも対象外、日本はOK等など、大変ためになる話が満載でした。
その他、汚職撲滅のため、NATO諸国のキエフ駐在大使たちが、如何に内政干渉すれすれの勧告をウクライナに行い、それをゼレンスキーが実行しようとしているか等なども、面白く聞かせて頂きました。
出席者は皆、大変満足されたと、主宰者として、喜んでおります。
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