孔子曰く、「小人は窮すれば濫(らん)す」~トランプ流交渉の実態:原理や明確な判断基準、更には十分な事前準備等もなく、時々の風に応じ、利害損得の尺度一本で、態度豹変~
米国中間選挙まで後3週間、ここに来て、米国内のディーゼル価格の上昇が、与党共和党、とりわけトランプ支持の中核MAGA層にとって、大きな問題に浮上してきている。
ディーゼル油は、トラック輸送や建設、鉱業、農業機械など、経済活動の基盤となる極めて重要な燃料(とりわけ米国中西部の農業州や大西洋岸の石炭や鉱物資源産出州、さらには南部エネルギー産出州など、共和党支持色の強い諸州にとっては…)。
直近、その価格はウクライナ危機以降の高値圏で推移している。
その背景には勿論、米欧のロシア原油輸入禁止措置や、ロシアの精製能力がウクライナの攻撃で大きく毀損していること、更には中東原油の供給不安が高まっていること等があるわけだが、こうしたディーゼルの価格情勢を懸念して、米国議会内には、中国等が既に実施しているような、自国内(米国内)で精製したディーゼルの国内への供給を優先し、輸出をその分抑える策を主張する声が高まっていた。
こうした状況下、9月末、トランプ大統領は、ワシントンを訪問していたウクライナのゼレンスキー大統領と会談、その直後の記者団とのインタビューで、上記の議会内の動きについて問われ、「そうした輸出規制を私も求めている」と明快に答える迄に至っていた…。
***トランプ大統領は、ウクライナ戦争勃発後は、ロシアの戦費の源泉となる、同国の石油資源輸出を抑え込むために、国際社会がロシア産原油・エネルギーの輸入を極力抑制するために数々の規制をかけた際、その結果、世界市場で惹起されるエネルギー不足を賄うため、米国からのディーゼル輸出をむしろ促進する措置を取ってきた。
それがここに至り、態度を一変させたわけだ。
ところが、米国中間選挙が迫った10月の第一週後半(9日)になると、米国内のディーゼル供給の不足をどう補うかを巡り、状況は意外な方向に突き進むようになる。
トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、ロシア産ディーゼル燃料の輸入禁止といった、これまでの米国の姿勢を一変させ、ロシアが一定量のディーゼル燃料を世界市場に供給することを認めたからだ。
更に、それだけの合意に留まらず、この輸入禁止措置の緩和を実効あらしめるため、ウクライナのゼレンスキー大統領に、ロシアの製油所などのエネルギー施設への攻撃を停止するよう求めたのだ。その際、それが聞けない場合は、ウクライナは大統領を変えるべきだとまで発言したという。
***ウクライナのゼレンスキー大統領の形式的任期は既に満了しているが、戦時下ということもあって、再選の選挙は未だ実施されていない。
ロシアのプーチン大統領は、この事実をかねがね指摘し、ウクライナの指導者は民主的形式で選出されておらず、合法性がないと批判してきた。
トランプ大統領も嘗て、こうした事実を取り上げ、ゼレンスキー大統領に対し、民主的選挙を早期実施するよう、無いもの強請り的な要求したこともあった。
***いずれにせよ、上記の米ロ首脳間の電話会談の結果を受けて、ロシア政府は10月10日、これまで制限していたディーゼル燃料の輸出の一部解除を決定したと発表、具体的には、50万トンを輸出可能だとした。
今後、ロシアの石油会社が政府と連携して、海外の取引先との供給契約締結に着手するとのこと。
***一方、米国政府も10月9日、これまで対ロシア制裁の一環で禁止してきたロシア産ディーゼル燃料の輸入・販売などを、今後は暫定措置として、2027年4月7日まで認める一般許可を発行することになったという。
***筆者は前回レポートで、議会が選挙休会に入った今、国際情勢や米国内経済情勢に大きな影響を与え得るのはトランプ一人になったと指摘しておいたが、案の定、この瞬間の、その政治独占的な立場を、トランプは意識的に活用し始めたということだろう。
恐らくは次に来るのは、北朝鮮指導者との会談といった処か…。
こうした急転直下の状況変化を、米国政治専門の情報会社Axiosは、以下のように報じている(2026年10月14日)。
そして、当然にともいうべきだろうが、上記のような、トランプ大統領が取った諸措置が、問題を更に拡大させることになる。
10月13日(火曜)、米国のNPR放送は、ウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領との単独インタビューを行ったが、席上、同大統領は「米トランプ政権が、ウクライナ軍がロシア国内の石油施設へのドローン攻撃を止めないなら、従来続けてきた米軍のインテリジェンス情報供与を切断すると、警告してきた」と明らかにしたのだ。
席上、ゼレンスキー大統領は、米国がロシアのディーゼル燃料輸出の再開を認めたからといって、価格が下がるわけでもない。
亦、ウクライナ戦争だけがディーゼル燃料価格を上昇させたのでもない。結局、価格を現状のように高騰させたのは、ホルムズ海峡閉鎖であり、イランとの戦争であることは、世界が知るところだ…」と反論した。
さらに同大統領は、「10月11日のトランプ大統領の、自己のソーシャル・メディアでの“ロシアとウクライナが、双方のエネルギー施設攻撃を抑止し合うことで合意”との発表が、寝耳に水であり、このトランプ発表があってからも、ロシアのウクライナ・エネルギー施設攻撃は続いている」と、ウクライナ側から観た実情を説明した。
***この10月11日のトランプ発表について、ロシアのペスコフ報道官は、「ロシアと米国の接触は続いている」とだけコメントした。
思うに、この辺の食い違い、恐らくはトランプの性急なエネルギー停戦合意の発表が、未だ事務ベースでの細部の詰めを残した段階でのものであり、この早すぎた公表が、それ故、事態を一層複雑にしてしまったのではあるまいか…。
トランプの主要関心が目先の米国内での中間選挙状況にあり、その状況に大きな影響を及ぼし得る、そんなタイミングを見越してのエネルギーでの暫定停戦公表だったが、どっこい、詳細は未だ詰め切れておらず、それ故、ウクライナへの通知もなされていなかったのでは、と…。
10月13日、米紙NYTはウクライナ駐在の記者2名の連名で、2晩続けてのロシアのウクライナへのミサイル攻撃に際し、米軍からの事前の情報共有がなかった旨を報じている。
尤も、この時の記事では、米軍・ウクライナ軍の情報筋の、「情報は依然として共有されているが、この2晩の攻撃時には、たまたま敵ミサイル飛来の察知が遅れたもので、これまでも多々あったことだ」と、事態を穏便に済ませるようなコメントが並んで紹介されていた。
(Ukraine Says It Received No Intelligence About Strikes 2 Nights in a Row:2026年10月13日 )
しかし、翌10月14日になると、同紙の報道トーンが変わる。
ウクライナ当局が、米軍供与のStarshieldの情報伝達速度が、従来よりも遅くなっていると明言したからだ(Ukraine said that its military, with no warning , had lost some critical access to a military version of Starlink, a pillar of its battlefield communications, Kyiv relies on the satellite internet system of Starlink, known as Starshield, which paid for by the Pentagon… That led Ukrainian officials and analysts to surmise that the restrictions had come from Washington, as President Trump is locked in his latest feud with Ukraine`s leadership)。
同じような報道は、ウクライナ発のロイター電でも伝えられた。曰く「Limits on Starlink`s services in Ukraine occurred without warning, Ukraine Presidential advisor Serhii Beskrestnov wrote on Telegram」
この種の報道を受け、米国内では先ず上院共和党のThom Tills 議員(ノースカロライナ)がStarshield の親会社Starlinkのイーロン・マスク社主に、「今回の情報伝達スピードの速度低下は、故障によるもので、故意によるもの(伝達速度を故意に遅らせた)ではないのだろうと誘いかけながら、具体的な理由の説明を求めた。
この問いかけに対し、10月14日、マスク側は自社のXを通じて、「伝達速度のスピード低減は、米軍の決定。それは即、3軍の責任者POTUS“President of the United States of America”の決定だろう」と突き放す答えを返してきた。しかしこの回答で、米軍の何らかの決定が、この情報伝達スピードの減速に繋がったことが一層はっきりすることになったわけだ。
こうした状況下、同じ10月14日、議会上院の超党派議員グループが上院外交委員会の民主党側筆頭メンバーJeanne Shaheen議員(ニューハンプシャー州)を名義人として国防総省の総括監察官宛て、何故、Starshieldシステム上での情報伝達スピードが、今回、急に減速させられたのか実情を報告するよう求める書簡を送りつけた。
書簡に名を連ねたのは、民主党側は上記Shaheen他、Dick Durbin(Illinois), Richard Blumenthal(Conn ),Chris Coons (Del ),Jack Reed (R.I)。
共和党側がThom Tills (NC),Susan Collins (Maine), Lisa Murkowski(Alaska),John Cornyn (TX)といった面々。
***こうした最大疑問の解明に向けた米国防総省のInspector General宛ての書簡の筆頭名義人に民主党議員の名が挙がること自体、上院共和党内の空気が滲み出ている。共和党内では今猶、トランプの威圧を避けたい雰囲気が根強いのだ。
***英国FT紙によると、Starlinkのイーロン・マスク社主は、2億7500万ドルの政治献金を共和党の選挙対策資金として拠出しているとのこと。
これにトランプ大統領自身の資金管理団体(MAGA Inc)が10億ドル以上の資金を保有している。
こうした多額のカネを見せつけられると、選挙を目の前にしている現状、共和党議員の誰もがトランプに楯突けない、というのもわかるような気がするではないか…。
上記のような状況下、直近のFT紙の報じる処では、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア国内の製油所への攻撃を再開すると言明した。
この声明は、トランプ大統領への強い不信感から出てきたもの。
しかし反面、このゼレンスキー声明が、逆にトランプ大統領の手によって、ウクライナ軍への情報共有が一層限定される可能性をも高めるもので、その行く末を西側諸国は固唾をのんで見守っている。
この展開の裏で、ほくそ笑むのはプーチン一人という構図か…。それにしてもトランプの自称交渉上手とは、結局こういうことなのか…。
こうした事情を伝える、10月14日付のロイター電は、欧州各国はウクライナとゼレンスキー大統領を支持しているが、低軌道衛星通信でスペースXに代わる能力を持つシステムは欧州にはなく、今回の出来事は、単一のシステムに依存するリスクを顕在化させ、且つ、そのシステムを保有する国のリーダーの気まぐれに左右されない体制作りは最優先の課題だと指摘するが、「さてその実践は…」、となると…。
***上述したような事情を知れば知る程、トランプ流のやり方は、えげつないし、今流行の高市総理語録に謂う“ダサイ“もの…。本稿がそのタイトルに孔子の言葉を使用した所以である。
***もう一歩、調子に乗った言い方を許されれば、ゼレンスキー大統領の口には、明治維新の功臣・久坂玄瑞の言葉が似合うような気がしてきた。
ゼレンスキー曰く、「集散離合を以て志を変じるは禽獣と謂うべし」と…。
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