鷲尾レポート

  • 2026.11.08

今後の米国政局への、(直感的)影響評価試論~中間選挙結果の速報を受けて~

選挙当日、開票が始まるや、米国メディアは早々と下院での民主党優位が確定と速報を流し、その後、上院でも民主党が多数派になったと報じた。

選挙直前、ハーバード大学の選挙投票モデルの試算では、下院での民主党多数実現の確率を96%、上院での多数派実現の可能性を78%と予測していた。

私見では、有権者の実際の投票行動は、事前の郵送などでの出足が殊の外早く、しかも、それらは民主党票だとの推測から、予測以上に民主党優位となるのでは、と推測していたが、実際には、そうした筆者の素人予感が的中した感が強い。

最終結果が確定するのは、猶、数日かかるとみられるが、恐らくは、事前予測以上に民主党が躍進することになるはずだ…。

今回選挙を顧みれば、投票日直前の約1か月間に、古来日本の源平合戦に観る壇ノ浦の潮目の変化の如き激変が起り、それが一気に共和党不利の方向に作用した。

議会共和党指導部にとって、「出しゃばりトランプよ、お前は何をしてくれたのだ…」との遺恨の一言も発したい心境だろう。

***源平合戦の壇ノ浦の戦いの件では、午前中、西から東に流れていた海流を利用、平家は西から大勢の小舟を使って、東側に位置していた源氏の水軍に矢を射かけ続け、海戦中の優位を保っていた。

ところが午後になると、潮の流れが東から西へと逆流、形勢は一変、源氏が優勢に転じ、結局、平家は潰走したという。

今回の中間選挙を念頭に、トランプ大統領は相当念入りに事前の準備を整えてきた。

例えば、連邦議会下院の僅差での共和党優位を是正し、もっとゆとりを持った優勢を確保しようと、従来なら禁じ手とも目されたはずの、人種バイアスのかかった下院選挙区の是正を、それこそ共和党のドンの立場からの鶴の一言で、共和党優位の各州で実施させ、思惑通りに行けば、この措置だけで十数議席は増やせたはずだった。

更に、第二期政権発足直後から、不法移民対策に力点を置き、国家保安省などを積極的に督促し、強引なまでの取り締まりを実行、捕まえた不法移民を、これまた強引なまでの方法で、本国送還させたりもした。

当然に起こるはずの抗議の声も、批判者に極左のレッテルを張り、そうしたやり方を亦、MAGA派の基盤強固化に使うなど等…。

***結局、こうした策略も、被害者にも比すべき黒人有権者やヒスパニック有権者の、共和党からの一斉離反を呼び起こした。

前述した、鳴り物入りの選挙区調整も、黒人色を薄めるため、否応なく新選挙区に編入されたヒスパニック層が、一斉に民主党支持に回り、当初の新選挙区からの共和党下院議員の大量当選は実現しなかった。

「策士トランプ、策に溺れる」、の典型例だろう。

亦、本来なら中間選挙は大統領の信認選挙ではないはずの処を、第一期政権時代の中間選挙に際して取った、その種の戦略が上手くいった、その成功体験に目晦ましされたのか、今回の中間選挙をも、自ら好んで自身への信認選挙の如く仕立て上げようとした。

偏に、自身の政権の歴史的遺産創りに資するために…。最近の筆者は、芝居や映画の見過ぎの所為か、こんな落ち目のトランプ大統領を観ると、ついつい「雉も泣かずば、撃たれはすまいに…」等と口にしたくなってしまう。

***選挙直前の数か月、トランプ大統領は80歳の高齢にもかかわらず、実に28回も支持者動員ラリーを実施、加えて、映像を使ってのテレ・ラリーも何度か試みるなど等…。嘗て上手くいった方法に囚われて、同じ手を何度も使う。これもトランプの老衰の証と見るべきか…。

いずれにせよ、選挙結果が明らかになった今、我々として想定しておくべきは、今後の米国政治の行方だろう。

嘗て、下院での民主党優位が噂され始めた頃、Hakeem Jeffries下院院内総務は、「仮に下院で民主党が多数を取れば、表向きの政治課題として、やるべきことは3つだ」と断言、具体的に、①トランプ関税の撤廃、②大統領にイラン戦争を終結させること、③本年初頭から失効していたAffordable Care Actの補助金を復活させること、を挙げていた(拙稿:“凪から時化へ、」風向きの急変に苦しむ共和党”:2026年10月1日参照のこと)。

Jeffries 院内総務(来年からの次期議会では、当然に下院議長に就任)は亦、9月末に次の様にも述べていた。

「下院で民主党が多数派となり、各委員会の委員長を自党から出せるようになると、自分は下院司法委員会委員長にJamie Raskin 議員(メリーランド)を、同じく下院政府監視委員会の委員長にRobert Garcia議員(カリフォルニア)を指名する」と…。

更にJeffries院内総務は、「トランプ政権の腐敗の構造を明るみに出すことが、多数を確保した、民主党の新しい議会仕事始めとなる」とも…(Jeffries has promised that investigation into what he calls corruption in the Trump administration would begin “On day1”;ロイター電2026年9月30日)。

このJeffries発言を受け、上記Raskin次期下院司法委員会委員長は、「こうした調査の目的は、トランプ政権下のシステマティックな腐敗が、如何に国費を無駄に使っていたか明らかにするためだ」と指摘、調査対象の一例として、嘗てElon Musk率いる企業が指導していた、Department of Government EfficiencyとMusk氏との関係で、政府調達や政府契約の面で腐敗がなかったか、或いは、連邦教育省廃止に関わる各種決定の中に、腐敗がなかったか等々の精査を例示として挙げた。

更に、加えれば、トランプ好みにホワイトハウス内を改修した各種内装工事にも、当然に精査の眼が向けられるだろう。

こうした視点で、筆者なりに見直すと、議会には既に不貞・腐敗絡みの多くの資料が提出されている(提出はされていても、共和党多数の議会内では、棚上げされた状態のままだった:例としては、トランプ親族企業が、大統領の外交活動との関連で、色々と利益を上げたとされる多くの事例、特に中東絡みの案件等。加えて、獄中で死亡した実業家Jeffrey Epstein絡みの性的スキャンダル資料など等)。

この種の未解決スキャンダルが、今後、議会民主党の手で、次々と各種委員会の場で取り上げられることになるのは、想像に難くはあるまい。米国の政治上、或いは司法上の追求は、政情が変われば容易に再度表面化する。

要は、火種が残っていれば、かなり後々まで追求の手が及ぶ可能性がある。

米国の司法は、想定以上にしつこく、息長く、問題を追及する性癖があるものなのだ。

***上記の点に絡めて補足しておけば、トランプ再登場と共に、多額の政治資金を供与した大企業幹部たちや金満投資家たちに対し、民主党支持有権者たちの目は厳しい。民主党は、選挙期間中、億万長者たちの権力をCorporate Americaの腐敗の根源だと、批判のトーンを高めていた。英紙Financial Timesは、そうした米国金満層の政治への関与に、米国有権者たちが怒っている/と報じている(2026年10月29日)

***それ故、そんな状況下の民主党指導者たちも亦、選挙が終わった今、支持有権者に対して、その先付小切手を切らなければならなくなっている。

この間の事情を、米国議会専門誌AXIOSは選挙直前、次のように記していた。

“America‘s corporate titans greeted President Trump`s 2024 victory with open checkbooks, 12-figure investment pledges and fawning to his coming “Golden Age”…Two years later, on the eve of a political blue wave, Democrats are preparing to greet those same executives with a stack of subpoenas(:議会召喚状)”(2026年10月30日)。

*** Elon Muskに対する民主党の眼はとりわけ厳しい。

拙稿先月号(2026年10月17日)で報じたウクライナ向けStarshieldの情報伝達速度の低下に関しても、民主党はこの間の、Musk と トランプ大統領との交信記録、或いはMuskとプーチン大統領との交信記録の議会提出を求めているという。

要するに、トランプ支持を表明していた大企業幹部たちは今、民主党系のロビイストを雇い、盛んに民主党との選りを取り戻そうとしている模様。トランプ大統領にコミットし過ぎた反動といった処か…。

こうした脈絡で言うと、直近に発生した世界最大規模のcryptocurrency搾取事件に絡んで北挑戦の介在が 取りざたされているが、こうしたニュースも、議会両院が民主党の手に落ちた今となっては、北朝鮮の金主席との会談を実現させたいトランプ大統領の手を縛ることになるのでは…。

いずれにせよ、今回の中間選挙での民主党の躍進は、従前のトランプ大統領の立場を一変させた。そうした状況を、議会専門情報誌THE HILLは、選挙一日前(2026年11月2日)に次のように記していた。

「トランプが米国政界に登場した時、彼の支持者たちはトランプ流の常軌を逸した強固な姿勢や言動に、これまでの既成政治家のそれとは違う新鮮さを感じ取り、彼こそ本音でモノを言う指導者だと、支持熱を高めていった」。

(When trump first appeared on the political scene many of his devoted followers admired him for rejecting “ political correctness” and saying things other conventional politicians would not.)。

だが、そんなトランプへの熱情は、今や失せた(But, this is wrong. Today, even a dozen Catholic bishops who were filmed praying over Trump, distanced themselves from him…)。

要は、米国民の多くはトランプの数々の誓約が実現せず、むしろ事態が悪化している実情に目覚め、或る種の“裏切られ感覚”(sense of betrayal)を感じ、心底怒っているのだ。

事実、この記事は、“The Trump era is over”との記述で終えているのだが、その終わりを齎したものは“political suicide”だと、配色濃い大統領を冷たく突き放している。

尤も、マスコミ記事の記述としてはそれで完結するのかもしれないが、現在進行形の政治劇としては、我々日本人はとてもそれでは観察を終われない。

選挙を終えてワシントンに帰ってきた共和党議員たちは、現行の議員任期が残っている内に、出来るだけ多くの積み残し案件を、与党としての立場から処理してしまうべきだと、模索し始めている。

先ずは予算…。

現行のつなぎ予算は12月11日に失効する。言い換えると、新議会開会までの本年中に、つまり未だに共和党が両院で多数を握っている内に、共和党指導部としては、2027年度予算案の採択をしてしまいたいのが本音だろう。

だが、年内の、こんな短期の内に、省庁毎の計12本の歳出法案を議会が採択するのはどだい無理。そうした現実を考えると、本年度3回目となる短期の予算案(Budget Resolution)を緊急採択するしか、政府閉鎖を回避する方法がないのも実情。

だが、力を失った共和党にそんな芸当が出来るのだろうか…。

歴史の先例を観ると、2018年の中間選挙で民主党が下院で優位を占めた時、トランプ第一期政権は2018年12月22日から2019年1月25日まで、政府閉鎖を余技なくされた。果たして、今回もそうなってしまうのか…。

次の課題は、国債発行に伴う債務増が発生する故、現行の国としての債務上限枠を積み増しする立法を成立させる必要がある事…。

大方の見方は、2027年の夏頃には、そんな事態が到来するという。

その時までに、トランプ政権は議会から、米国政府が発行を許される、国債発行額の上限引き上げ立法を成立させて貰わなければならない。これも、対立色を強める議会民主党相手では、そう容易くは行きそうもない…。

いずれにせよ、トランプ政権にとって、民主党が下院だけの多数だったらまだしも、上院までも握ったとなると、事の深刻さは倍加する。

上院は何よりも行政府高官(含む連邦判事、閣僚、大使人事)の任命に大きな力を保有している。更に、現職閣僚の罷免に関しても上院の存在は大きい。

***現実的な問題として、当面、トランプ政権のPete Hegseth国防長官への不信任が、民主党の手で進められようとしている。

ただ、不信任採択は、下院では過半数、そして上院では、3分の2の多数が必要で、この点では、上院共和党は未だ、民主党に倒しては、抑止力を持っていると言えるのかもしれないが…。

米国では外交関係上の手段は大統領の専権事項の様に扱われる。そうした特権を良いことに、トランプ大統領はこれまで、自身のDeal 外交を進めるため、議会の意思を無視することが多かった。例えば、台湾への武器供与問題。これなどは議会が立法としてゴーサインを出しているのに、対中交渉の材料だとして、実際の武器供与を留保したまま…。

或いは、議会が対ロシア制裁強化策を採択しているのに、トランプ大統領がその実施を留保するなど等…。

こうしたトランプ流の議会軽視も、民主党が議会両院を握った今となっては、恐らくは、これまでと同様と言うわけには行かなくなるだろう。

日本の立場からは、トランプ大統領が今になっても猶、中国や北朝鮮と交渉したがっているのは、要注意の話。

そう言えば、今さっき届いたForeign Affairs 電子版(2026年11月4日付)に、The Dangers of a Lame Duck Trumpという論文があったが、米国の学会は流石に凄い。論文の問題意識が現状と常に密接に関連させられている。

最後に、指摘すべきは、躍進した民主党内も必ずしも一枚岩でない事実。

今回選挙で、民主党が躍進できた主因は、観る角度にもよるが、私見では大きく分けて二つあると思われる。

一つは、従来からの民主党基盤州から出て来ている社会主義派系の勢力。

もう一つは共和党基盤州で観られる、本来なら共和党支持者だった、いわば穏健派共和党派、或いは支持政党なしのグループ。

彼らはトランプ流のやり方に“へきへき”感を持ち、今回選挙で民主党を支持した層を基盤とする。本来なら共和党の牙城だった南部諸州や中西部諸州を民主党が制した原動力となった層。

今後、恐らくは、民主党内で直ぐに始まると想定される、2028年大統領選に向けた党内覇権争いは、この2つの支持基盤を巡っての争いとなると思われること…。

“ Some Democratic strategists worry the internal fights will spill into the presidential contest in a much more dramatic fashion than in previous presidential races… “ (THE HILL 2026年10月30日))

そして、こうした構想を尻目に、トランプは益々自己の歴史成果を残すことを目指し、Deal, Dealで飛び回りたがる。ここまでくると、シーザーを目指しながら、ドン・キホーテで終わる、裸の王様感が出て来るから、同盟国にとっては迷惑な話ではないか…。

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