第二次トランプ政権の基本特質
何が、従来型の政治家大統領と違うのか、そんな異質な大統領が、何故登場してきたのか、或いは、再登場出来たのか…
トランプの性格、その性格と行動欲に惹かれたトランプ教信者たち、嘗ては光り輝く、アメリカン・ドリームの体現者だった重厚長大型製造業の工場労働従事者。「親父が従事し、そして自分も継いだ」、それがいつの間にか、米国の産業構造の激変と共に、“忘れ去られた人々に”。そこから生じる疎外感、誰がアメリカン・ドリームを奪ったのか、誰がこんな分断社会を齎したのか。
ワシントンにいる連中、綺麗ごとの世界に住む民主党リベラル派、彼らは信用できない。重厚長大型工場労働者は、嘗ては黒人層と並んで、民主党の大票田だった。だが今では、中産階級からずり落ちそうな悲惨な立場に…。
だから、嘗ては当てにしていた民主党には、最早任せられない。既存政治を打破してくれるリーダーこそ…。トランプが完全無欠な指導者とは思わない、しかし、彼は我々と同じ言葉で話し、同じ問題に憤っている。
何よりも、彼は言ったことは実行する、専門家たちやエリートたちが、彼の経済政策を批判していることは知っているし、その指摘は正しのかもしれない。だが、トランプ以外に、誰が我々に向かって話しかけてくれているのか…。
指導者に力がある限り、正当化の論理は後からついてくる。例えば保守派のエコノミストOren Cass(You Tubeを使って盛んに論陣を張り、バンス副大統領やルビオ国務長官に近い)。力があれば、流れを創り得る。結局は、それが政治というもの…。
……第二次大戦後、米国は、民主主義・資本主義市場経済の総本山、冷戦下、敵対するソ連陣営に対抗するため、後進諸国の経済を発展させ、民主主義陣営の中に取り込もうとした。日独に代表され、後にはアジアNIESもその路線に倣うようになった輸出主導工業化。
国内では産業政策を実施し、国内需要を上回る生産能力を装備、その過剰生産能力を使って、米国向け輸出を伸ばす。そうした大量に、且つ安価に流入する工業製品のため、米国の重厚長大産業は衰退の道を歩み、従事していた労働者は今や中産階級からこぼれ落ち始めている。米国の貿易赤字は増大の一途。
そんな米国に誰がした(これまでの米国の指導者たちであり、その政策に論拠を与えてきた専門家たちではないのか…)、前任者たちは、皆、間違っていたのだ。
→→Trade is Bad, Custom Tariff is beautiful(トランプの常套語)
→→トランプの愛読紙(予想外かもしれないがNYT, WSJ)、ニューヨークで商売してきた不動産業者にとっては当然だろう、第一次トランプ政権時、NYTは全社挙げてトランプ政権批判の論陣を張ったが、その同紙に、トランプは単独インタビューの機会を何度か与えている。直近、トランプがNYTを名誉棄損で訴えるとのニュースを目にしたが、これなども先ずは、相手に先制パンチを与えて臆させる、トランプ流の常套手段。
つまり、リベラルがどういうか、トランプはすべて承知、その上で、トランプがリベラル批判の上を行く行動を取り勝ちなのは何故…
→→トランプのワシントン政治不信、2016年大統領選挙勝利後のトランプが体験した、或る意味での悲劇。政治の素人、共和党の新顔、既存共和党主流派からの人事・政策・議会対策等などでの干渉・抑制・方向付け。対抗するために、そうした外部からの、干渉抑止のための身内の登用、閉鎖的なホワイトハウス、閣内での批判者を追放、「第一次政権時の最大の失敗は人事」(第二次再選後のトランプ独白)、その後に続いたワシントンの“闇の政府”からの圧迫、数多くの裁判沙汰。
→→トランプの反撃開始(2018年の中間選挙頃から)、中間選挙をトランプは、自らへの信任投票選挙だと位置づけ、その流れの中で、議会共和党主流派議員たちを次々と引退に追いやり、党をトランプ派の巣窟化しようとした。そのためには自らへの岩盤支持層固定化を図り、その一途として対中関税戦争を仕掛け、遂行した。
→→忘れられた人々を岩盤支持層に共和党を乗っ取り、今やトランプは、ホワイトハウスの主、議会共和党のオーナー、米国政治の独裁者シーザー。要するに、そこに至るまでは、トランプなりの長い戦いだった
→→従来のワシントン政治を、謂わば、導いてきたのは“理念”、その理念とやらを追求してきた結果、米国はどうなったか。その理論的支柱となってきた専門家不信、「彼らも結局は、結果を追認するだけ…」。
トランプ自伝(The Art of The Deal: 市場に対する勘が働く人と、働かない人がいる…私は、複雑な計算をし、最新技術によるマーケット・リサーチをする専門家を余り信用しない…。
専門家と称する連中は、大衆が何を望んでいるかわかっていない。そして彼ら専門家も亦、他の人たちと同じように、結局は世論に左右される、大海の小魚のような存在なのだ、誰かが導いてやらなければ…)。
→→「頼むのは己の経験に基づく“勘”」あるのみ。唯、トランプも馬鹿ではない、高率の関税を半ば強制的にかけると、いずれ国内物価に反映されて来ることは先刻承知、だからこそ、「そうなる前に金利は引き下げねばならないのに、FRBの馬鹿どもは、統計を見てから判断するなぞとぬかす。それでは遅いのだ。FRBが動かないのであれば力づくでも動かすまでのこと…」。
→→高齢と、制度的に3選がない米国の大統領職、トランプには時間がない。「ホトトギス、鳴かぬなら鳴くまでまとう」などと、悠長なことは言っていられない。鳴かぬなら該当者を辞めさせれば済むこと…
米国建国の父たちが苦心惨憺して築き上げた、3権分立の制度はもはや時代遅れ…。Check and Balanceではなく、今、必要なのは、Effective and Quick。たとえ、その結果、フェイク・ニュースや詐欺などが横行し、社会における信用と信頼が損なわれるようになっても、スマホやX、ALがもてはやされる時代にあっては、“迅速、かつ速やかに…”が、社会にとって至高の価値となるのだ。
もし、そうした犯罪が行われれば、強力な警察力や、場合によって軍隊の力で取り締まればいいだけの話。つまり、持てる力を使わないのは、為政者の怠慢。
齢240年余の米国の政治システムも、制度疲労の時期に入った。制度設計で、当初から盛り込まれていたcheck and balanceは、今やそれが齎す弊害の方が大きくなっている。
制度が機能しないのなら、政治を善導するのは指導者の役割、だから、与えられた大統領特権は最大限発揮しなければならない…。
米国社会は変革と革新の両方を求めている。前者を求めているのは“失われた人々”、後者を求めているのは金融分野のイノベーターたち。
故に、この2つの異なった支持基盤には、それぞれに餌をまかねばならない。前者にはManufacturing Renaissance(そのための関税政策、裏から言えば、米国流産業政策の実施、日本や韓国、EU等から対米投資増強誓約)、後者には仮想通貨の認知や減税、規制緩和等など…。
***関税交渉に於ける巨額の対米投資誓約(商務長官に乗せられた?…或いは、承知の上で乗った?…EU、日本、韓国)
Anti-Intellectualism、その社会的意義づけの180度の転換(リベラル思想啓蒙→→抑圧された生活者の“居直り・本音”吐露のために便利な用語に…世の中(政治)が、“忘れられた人々”の価値観を軸に動き始めると、むしろ文字通りに、Anti-Intellectualな態度が当然視されるように…。
“The irrational has come to appear not the exception but the rule”(社会に渦巻く強烈なフラストレーション。今までは表に出せなかった感情、それがトランプによって刺激され一気に表面に=“知識への尊厳”の喪失、トランプ政権の名門大学攻撃、人権の過度の擁護の是正、ケネディー厚生労働長官の“ワクチンは間違いだった”認識)
「6.国際政治分野でも、歴史の後戻り(或いは、“新しい国際秩序の幕開け”?)」、「7.最終的に、トランプは、米国のシーザーになるか、或いは“ドンキホーテ”で終わるか?」の詳細吟味は2)以下で…
トランプ政権の権力構造(第一次政権時の手痛い失策【人事・組織統制等など】を強く後悔、One for All, All for One【大一、大万、大吉:余談、石田三成の旗印】等と理念ばかりを唱えずに、権力はAll for One、その権力を己の判断でどう使うか、そこに為政者の真の責任がある:トランプ流為政者論)
前述の1)の②参照、「米国は、第二次世界大戦後、搾取され続けてきた」
そんな脈絡で、FRBに金利引き下げを要求している側面も…)
外交目的は戦後米国を搾取してきた対米黒字国への“貸”取り戻し
***基本認識が、米国は搾取されて来た点にあるのだから、相手によって取り立て方が異なってくるはず…
***冷戦時の敵だったロシアは、一義的には対象外。トランプはロシアに搾取されたとは思っていない、故に、対ロシアはウクライナ問題とのかかわりで決まって来る。
***対中は、微妙。米国にとって、支援しながら裏切られた最大の国は中国。鄧小平の改革開放以来、冷戦戦略上からも、米国は中国の改革開放を支援、米国市場を開放、ソ連崩壊後、中国は平和の配当の最大の裨益国に…。しかし、「経済が発展すれば中国もいずれ米国的な国に変貌するはず」との目論見は外れ、習近平政権が誕生して、中国が「偉大な中国夢」や、太平洋は米中が併存できるほど広いなどと、新型大国関係を標榜するようになると…米国に対中嫌悪感と脅威感が強まり…。米国内には、そんな中国への強い怒りが…。但し、トランプは、そんな中国に愛憎半ばの眼を向けている。
***中国共産党には強い憎しみを(巨額の対米貿易赤字、政治体制擁護のためには、何をしでかすかわからないとの不信の眼 VS習近平には敬意と友情(素晴らしい男、世界水準のポーカー・プレイヤー)
取り立て手段は、相手によって異なる。
例えば、Trump’s Vision: One World, Three Powers? (NYT 2025年5月26日)という記事など…。
***Three Powersなどと言う言葉を聞くと…。孫氏の兵法と三国志の諸葛孔明を思い出す(天下三分の計)。陰と陽は、現実の展開によって生じる2つの連続した段階…物事の正反対の視点から見る…陽の光が山を照らしている面と、その反対の陰が山の裏面を隠している面と…
→→この陰陽の自然循環的傾向を、弱者が如何に活用するか(弱者の勝機はそこにこそある):充実している者にはこちらも備え、知強い者は避け、怒り狂っている者は撹乱し。謙虚な者は驕り高ぶらせ、安楽にしている者は疲労させ、団結している者は分裂させる(孫子)
→→すでに強大な力を築いている勢力(米国)を相手にしなければならない中国は、ロシア(経済力では今や中国の十分の一程度:但し、核戦力は中国よりも優勢)をして第二勢力に仕立て上げ、自らは第三勢力に留まるよう仕組み(天下三分の計の実践)、局面に応じて、米国対ロシア(ウクライナ戦争)、或いは米国対中国(トランプとの関税戦争)、そして折々には中露連携しての、対米対応(グローバル・サウスの取り込み)…。直近の、北京での中国の対日戦争勝利記念式典への中・ロ・北朝鮮指導者揃い踏みも、そんな中国の戦略的試み故…。
習近平は10年かけて、共産党内での絶対権力を確立したが、トランプには、制度上、後3年半しか時間がない。権力基盤の前提条件が、制度上、こんなにも違う体制に依拠せざるをえないトランプにとって、個人戦なら兎も角も、最終的には組織・体制間の交渉とならざるを得ない米中交渉で、習近平と互角に渡りえるものなのだろうか…?
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