鷲尾レポート

  • 2025.11.06

高市新総理の国際政治デビュー観戦記

10月21日、臨時国会で首班指名を受けた高市新首相は、24日、初の施政方針演説を行った。翌25日には米国のトランプ大統領と電話で会談、その足でマレーシアに出発、同地で開催されたASEANの会合に出席、オーストラリア、フィリピン、マレーシアの首脳と個別に会談、27日朝には早々と帰国。

そして、帰国した日の晩には、休む間もなく、東京にトランプ米大統領を迎え、大統領と天皇陛下との会見を実現させ、翌日には日米首脳会談、その後、トランプ大統領と共に園遊を楽しんだ後、米国の大統領専用ヘリコプター・マリーン・ワンに同乗して、横須賀米軍基地を訪問、米原子力空母“ジョージ・ワシントン”甲板上に降り立ち、米軍兵士たちを前に、大統領に続いて簡単な演説を日本語で行い、“開かれたインド・太平洋の重要性”を強調した。

高市総理は英語の達人。望めば米空母上で、米軍兵士を前に英語の即興スピーチ位はやってのけられるはずだが、そこを敢えて日本語で話をしている。この例など、日本のテレビが放映すだろうことを見越して、考え抜いた末に日本語を選んだのだろう。

亦、トランプ大統領の褒め言葉に、米兵の前で喜んでピョンピョン飛び跳ねたことなども、熟慮の産物。日米の有権者向けに、大統領との距離が近いことを示す、格好のパーフォーマンスと理解するべきだろう。だが、こんな姿は、中国の一般大衆には、トランプに媚び過ぎているとの印象も与えてしまった模様。一方を立てれば、他方が立たずの典型例

高市政権成立直後の色々なレベルでの日米政府の接触では、米国の望んでいる案件を、米国が正式に求めて来る前に、次々と日本側から合意フォーマットを提案する。そんな先手必勝戦術が採られた様子(例えば防衛費増額を日本から言い出す等など)

要するに、トランプ大統領が日本訪問の成果を米国内で誇示出来るように、恐らくは米国側からの要求もあって、日本側がその種の具体案を示すという、先手必勝戦術で応じたのだろう。

例えば、日本側で問題視されていた5500億ドルの対米投融資枠に関して、「両国の供給網整備を大目標に、電力インフラ、AIインフラ,電子機器及びサプライチェーン、重要物資への投資、製造業及び物流への投資等など、具体的なプロジェクトを例示する」ファクトシートが作成された。更に、それらプロジェクトに参加する個別日本企業が、大統領の前で、投資を表明する儀式まで添えて…。

こうした対応を、発足間もない高市政権が採れたのは、安倍政権時代の対トランプ対応に手慣れた、能力ある官僚群を手元に引き戻していたからだろう

例えば、第一次トランプ政権内部の暴露本として世界的に読まれたマイケル・ウオルフのFire and Fury, Inside the Trump White Houseの本の中に、トランプンの娘イヴァンカの、こんな言葉が出て来る。「…父を上手く説得する方法なら、ずいぶん昔からよくわかっている。熱中という名のボタンを押せばいいのだ。彼は名声が好きだ。大物というイメージが好きだ。そう思われるのを好んでいる。そんなイメージを与えてくれる“インパクト”が好きなのだ…」。

安倍元首相の側近だった官僚たちは、そんな昔のトランプ・イメージを蘇らせて、高市首相がその種のイメージをトランプに与えることが出来るように、色々と手を打ったのだろう。

更に、トランプが盟友と位置付ける故安倍総理の逸話をところどころに配して、安倍後継としての高市首相を売り出し、トランプの心を掴む(故安倍総理の夫人を登場させたり、安倍総理がゴルフに使ったパットを見せたり等々は、そうした代表例)。そしてその見返りに、トランプ側から高市首相への破格の厚遇も勝ち取った(前述のマリーン・ワンに同乗しての米空母乗船等など)。

高市新首相の変貌ぶりには驚かされる。女性の服装や化粧などにはあまり関心のない筆者だが、化粧ぶりが変わったように思われ、着る服(落ち着いた雰囲気を醸し出すと、年配者には好評のジュンアシダ・ブランド)によるムード創りにも従来以上に気を使っているようだし、装身具も、例えば就任直後に身に着けていた大柄な真珠のネックレス等など…。

恐らくは、スタイリストが周囲に就いたのではなどと、あらぬ想像をたくましくさせてくれる。それ程までに、女性指導者としての自身のイメージ構築に気を使っているのではないだろうか…。そうした思考方法には、どことなくだが、米国流の感性があるように思えてならないのだ…。

話を元に戻すと、10月29日には、高市総理は己の内閣初の月例経済報告を承認、翌30日、ソウルで開催中のAPEC首脳会議に出席、その機会に早々と日韓首脳会談をこなし、懸案のシャトル外交復活を約束し合い、続く31日には、日中首脳会談も行っている。

亦、この間、ソウルに集まっていたAPEC諸国の首脳等にも、自らのお披露目を済ませるなど、石破首相時代に決まっていた一連の外交日程だったとは言うものの、筆者のような政治素人からみても、超過密のスケジュールを、高市新首相は、実にそつなく、立派にこなし切った(恐らく、そのための猛勉強もしたはずだ)。

高市・習両首脳の間での握手時間は、日本のテレビ報道によれば、僅か10秒、習中国主席は笑顔を見せなかったが、別途、高市首相が発出した自身のSNS画面では、両首脳は笑みを見せている。これなどは、首相周辺が、新政権の船出が如何に上手くいっているかの演出に苦労している舞台裏を如実に表している。

尤も、上記したような、新首相のトランプ迎合姿勢故、習主席も、公的な場での初対面では、とても笑みなど出せなかった。それ故の“そっけなさ“だったのだろうが…。

振りかえれば、高市自民党新総裁が誕生したのは10月4日。僅か2週間程前に過ぎない。

しかし、新総裁は、直後、長年の連立相手であった公明党の、恐らくは想定外の離脱という難局に直面、その苦境を日本維新の会の、“衆議院議員の定数削減要求等”、自民党にとっては無理筋ともいうべき幾つかの主張を、いわば丸呑みする形で(当然、文言上の曖昧さを添加した上で)、辛うじて維新の閣外協力という形を取り付け、政権基盤が相変わらず不安定なままではあるが、且つ、自民党内にも不協和音の根源を抱えたままではあるが、国内外の政治スケジュール上、ぎりぎりのタイミングで新政権を船出させることが出来たのだ。

高市新総理には運が付いているようにも思われてならない。早い話、自民党総裁選で、小泉候補に勝てたのも、小泉農林大臣が採ったコメ減反から増産への舵取りの大転換を、「生産者よりは消費者を優先するもの」と受け止めた地方農村の自民党員票が、大挙して高市候補に流れたことが勝因であったように…(こうした推測は、新しく就任した農林水産大臣が、早々と“コメ減産への再転換を打ち出したこと”等で裏打ちされているのではないか…)。

更に、裏金問題などで、先の参議院選挙で、自民党支持層のかなりが参政党などに流れ出る傾向の中、今回総裁選では、なお自民党支持内に留まっていた保守票のかなりを、高市候補が個人支持票として吸収出来た点も大きかった。

つまり、全有権者ベースでトレンドを見直すと、高市支持率の方が自民党支持率よりも圧倒的に高い

これでは、自民党も、先の石破政権の失敗例もあるし、高市総理への高い支持率を以て、早急に衆議院解散・総選挙に打って出ろ、とはとても言い難い状況。言い替えると、党内からの反高市の声が出て来る可能性は現時点では限りなく低い(総裁選で戦ったライバルたちを、全員閣内に取り込んだ、いわば米国歴史上での、共和党リンカーン政権『Team of Rival』)の如くに…)。

現状では、政治を動かす指導力は完全に党から高市個人に移っているはずだ。

日本経済新聞の小竹コメンテーターは、日本政治の現状を「長く政権を担った政党が弱体化するばかりか、これに取って代われそうな政党も現れず、指導力の欠如に悩む…」と表現した(2025年10月16日)が、そんな有権者の心象に、安倍総理の後継的位置付けという雰囲気を身に着けて、高市新首相が登場するや、政治や政党に不満を持つ大半の有権者は、俄かに高市株を購買し始めたのだ。

尤も、有権者の期待は上空の風に漂う雲の様。新首相が自民党の旧態依然の風土の中に溶け込む素振りが少しでも出れば、人気は一気に剥げ落ちる

その意味では、「自分は政治目標を遂行する気満々なのだが、時には党内、亦ある時には、維新内での賛同が得られなかった」と、頭の働く彼女のことだから、自身への批判を常に他に転嫁する、そんな逃げの戦略も当然に用意しているに違いない。

いずれにせよ、高市新総理は“最高権力者たる”首相の力が、如何に強く、単なる閣僚ポストとは比較にならない大きな影響力を持っているか、恐らくは十二分に熟知している

その彼女は、繰り返せば、今や、安倍元総理の後継者、保守派の最後の拠り所、有権者の高市個人への支持も高く、しかも米国トランプ大統領との個人的信頼関係も瞬時に構築して見せた、それほどの手腕の持ち主…。外交上手で、女性初の日本リーダー等などの、多くの尊号を身につけることに成功した

このように見ると、直前のピンチを見事にチャンスに転換することに成功した、高市新首相の立場は、それ故、自民党内で一気に強まったと評するのが適切だろう。別の言い方をすれば、経済政策でも独自の思考を発揮する可能性が高まっている、と…。

だが、高市首相の性格の複雑さは、だからと言って、これまで打ち出してきた高市カラーを即前面に打ち出すことはせず、逆に、手慣れた官僚たちが考える、誰もが納得する正統派的考え方を打ち出す、そんな変わり身の早さも身に着けている処にあるのではないだろうか…。

少し穿った見方をすれば、要は、今までの高市哲学はあくまでも世に出るための手段であって、実際に為政者の立場に就いた今は、日本統治の最高責任者として、今まで自分が言っていたことを、極めて正統派的な意見、例えば、財政赤字に危機感を抱く財政当局の官僚たちのそれに、如何に上手く融合させるか…。そうした姿勢の微修正が、直前に行われた施政方針演説の中に十二分にちりばめられていると見るのは、深読みのし過ぎであろうか…。

施政方針冒頭の「私は日本と、日本人の底力を信じてやまない者として、日本の未来を切り開く責任を担い、この場に立っております」との発言の中に、筆者は、彼女の並々ならぬ決意をかぎ取ってしまう。

だからこそ、そうした決意と、物事を進める際には官僚を活用しようとの姿勢が繋がり、これまでの高市流主張も、そんな雰囲気の中で薄められて行くことになる。そして、そうした姿勢が亦、高市流官僚操縦術でもあるのではないか…。

こうした背景で施政方針演説を再度読み返してみると、色々な推測が湧き出て来る。早い話、高市首相は積極財政派だと見做されている。

だが、施政方針演説をよく読むと、例えば「経済あっての財政、の考え方を基本とする」とか、「責任ある積極財政…、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、それ故、税率を上げずとも税収を増加させ…」とか、「成長率の範囲内に債務残高の伸びを抑え…」等など、リフレ派というよりも、極めて正当な経済政策観が前面に出ている様に思われてならない。

更に、同演説では終結部分で、「事独り断(さだ)むべからず。必ず衆(もろとも)とともに、よろしく論(あげつらう)べし」との、聖徳太子の17条の憲法の一節を引用し、「古来より、我が国においては、衆議が重視されてきました。

政治とは、独断ではなく、共に語り、共に悩み、共に決める営みです」と結んで、各党に真摯に向き合う姿勢を強調して、演説を終わっている。

高市首相は、この短期間の間に、極めて多くの資料を読み込み、勉強したものと推察される。そして物価上昇が本格化した今は、消費を高めなければならない局面であることも良くわかっている。上記の施政方針演説中の「消費マインドを改善し…」といった言葉などその最たる例だろう。

そうした視点で、高市首相が直面しなければならない経済に目を転じると…。

何故、消費マインドが盛り上がらないのか…。実質賃金が上がっていないのが主因。失われた30年の間、企業は度々、史上最高の収益を上げたが、その多くを内部に留保し続けた。それは何故か…。メイン・バンク制が崩され、企業にとって、いざという時に誰も助けてくれないから…。

だから企業は、保険をかけて内部留保を増やし続けざるを得なかった。そうした心配ムードの中では、サラリーマン上がりの企業経営者にAnimal Spiritなど期待しても無駄だった

しかし、その一方では、株式市場制度が改善され、株主還元の制度も推奨された。だから、株を持っている人は値上がり益と株主還元で金融資産を増やし得たが、株を持たない者は、辛うじて保有する銀行預金も、低金利下で複利の恩恵も受けられず、故に消費購買力も増えず…

加えて、そんな時に採用された、政府の金融投資立国政策で、日本社会では今、金融資産の保持の有無による、所得格差から資産格差への広がりが次第に懸念される事態も生まれ始めている…。

では現状、どうすれば良いのか…。

恐らくその一つの解は、企業が連年ため込んだ内部留保――そのため、長期に渡り日本経済の労働分配率は低下し続けてきたのだが――を活用すること。この労働分配率の低減傾向を打破することなくしては、高市首相の言う、消費マインドの改善はあり得ない

求められるのは、企業が貯め込んだ資金を使って、賃上げと、国内投資(放っておいても海外投資はどんどん出てゆく)を推進することではないのか…。

こうした眼で日本経済新聞(2025年10月22日)を眺めていると、面白い記事が見つかった。それは、「企業現預金100兆円にメス」というタイトルの、金融庁の企業統治指針見直しの動きを報じるもの。

記事は冒頭、「現金を保有していても価値が目減りするインフレが続いており、日本企業の現預金の『山』が崩れる機運が高まる。21日に就任した高市新首相は、企業の非効率経営への問題意識が強いとされる…。

高市新首相は2021年の自身の著作の中で、企業の現預金に課税する案を披露…1%課税すれば、2兆円を超える税収になると記している…2024年の総裁選の際にも、内部留保の使い方を開示する必要性を強調している」等と記述している。

要するに、こうした記事内容と、今回の高市施政方針演説は、その内容に極めて高い相関性があるではないだろうか…。

つまり、もっと深読みすれば、高市首相が誕生した翌日の新聞に、金融庁関連の記事として、“高市首相も主張している”企業の内部留保活用案が、全く違った脈絡であるにせよ出稿されること自体、政治音痴の筆者は、見当外れかもしれないが、背後の財務官僚の意図を読んでしまうのだ。

猜疑心がこれくらい深くないと、政治の世界など理解できないのではないだろうか、と…。

日本の経済・産業は、トランプ関税の影響を今後、相当長く受け続けざるを得ないだろう。鳴り物入りの日本企業の5500億ドルもの対米投資誓約も、裏を返せば、その分、日本企業の今後の投資余力を、対米投資に廻すとの約束であり、結果、国内への投資を減少させる要因となりかねない

日本国内は、減少し続ける人口、伸びない所得、高騰する物価で、市場規模の拡大は余り望み得ない…。さらに、トランプ関税の影響で今後、輸出の大黒柱自動車の対米輸出が減り、逆に米国内で生産されたmade in USAの日本車が国内市場に流入することになる

結果、貿易構造が激変し、日本は益々、海外投資の利子・配当で生きてゆく成熟資本主義国化する。更に、国内での自動車産業全体の規模縮小が避けられなくなり、製造業立国ですらなくなる可能性も出て来よう

1980年代の米国では、レーガノミクス(大幅な歳出削減と大幅な減税に依る財政赤字、人為性を排した金融政策、それに規制緩和)で、レーガン政権発足の冒頭、米国経済は戦後最大の不況に陥った。そんな時、同政権は何らの経済対応策も講ぜず、全てを市場に任せる姿勢を貫徹した。

為に、米国は不況下の高金利、為替高に陥り、米国企業はそうした状況に対応するため、リストラと工場閉鎖による国内供給能力の大幅削減を実施、どうしても投資が必要な場合は、折からのドル高を活用して海外に工場展開させる策を取った。

結果齎されたのは、製造業の空洞化と金融・サービス経済化であり、米国の産業構造の抜本的変革だった。当時の米国は、今から見ると高金利。つまり、金融・サービス経済化を促進する主体たる金融機関にとっては、絶好の経営環境だったと思料される。

現在の、トランプ関税下の日本も、1980年代の米国と同じような製造業空洞化に、少し大げさに表現すれば、追い込まれる危機にある。鉄鋼や自動車、半導体やAI、更には電力等々、基幹的な産業群が、輸出の道を閉ざされ、加えて、国内マーケットの小ささ故に、トランプの政治的力で、一部ではあるにせよ、米国に生産基盤の移転を余儀なくされ始めている

レーガノミクスの時の米国に起こったような、市場の力に依ってではなく、トランプの、ある意味、政治的圧力によって…。

製造業の弱体化がもし招来されれば、では代わって、日本は金融・サービスで生きて行けるか…。

そのための基礎土壌たる金利・複利の世界は、黒田バズーカの後遺症が深く、加えて、利上げに慎重すぎる日銀の及び腰で、全く整えられていない。そんな時、高市首相は施政方針演説で何と言ったか…。

「中期的には、日本経済のパイを大きくして行くことが重要です。我が国の課題を解決することに資する先端技術を開花させることで、日本経済の強い成長の実現を目指します…。この内閣における成長戦略の肝は、『危機管理投資』です」。では。危機管理投資の実態は何か…。

高市首相はそれを、「経済安全保障、食糧安全保障、エネルギー安全保障、健康医療安全保障、国土強靭化対策などの様々なリスクや社会課題に対し、官民が手を携えて行う戦略的な投資」だと明確に説明している。

成程、それなら全て、内需関連になるし、官民が手を携えての表現も、『含む、企業の内部留保活用』だわなぁ」と、筆者は妙に納得がいった。

補論

それにしても、トランプというのは妙な大統領だ。どこまでが本当かはわからないが、前述の著作の中で、マイケル・ウオルフはトランプの独特な思考癖を指摘している。

例えば、第1期政権中に、トランプが打ち出した外交原則では、世界というチェス盤を3つに区分して、米国が協調出来る政権、協調出来ない政権、力が弱いので無視したり犠牲にしたり出来る政権に色分けしたという。こうした見立てと、それぞれの範疇に属する国家毎への違った対処方法は、まるで冷戦時代の大国の行動様式…。ウオルフによれば、そうした思考はトランプにとっては当然だと言う。何故なら、トランプ流の世界観では、米国に最大の国際的優位を齎したのは、眞にその冷戦時代だったのだから…。

こんな例も書かれている。トランプの欠点の一つは、因果関係をキッチリ把握出来ないことだそうで、それ故、何か問題を起こしても、必ず新たな出来事でそれを塗り替えることが出来てきた。しかし、このことが彼に、悪いストーリーは必ず良いストーリーによって、或いは、ドラマテイックなストーリーによって塗り替えられる、との確信を与えてしまったのだという。取り上げる問題はいつだって自在に変えられるものだ、と…。

一つの問題を追及していたトランプが、いつの間にか違う問題に興味を持ち始めるのは、上手くいかなくなった時の、その案件からの逃避、つまり解けない問題を、全く違う問題に代置することで、困難な問題の方を忘却の彼方に置き去ることが出来るというわけだ。中国がトランプの関税賦課に動じないと見るや、全く別の問題、例えば核実験の再開を匂わせたりするのは、そうした一例なのだろうか…。

ウオルフは亦、こんな話も紹介している。トランプは確信している。「根強い怒りや憤懣を抱える米国社会にはけ口を与えることで、一人の男(トランプ)が政治体制を超えた存在になり得るのだ」、と…。

トランプ大統領がマレーシアのASEAN会合、東京、韓国のAPEC会合等で外遊している間でも、米国の首都ワシントンでは予算枯渇による政府閉鎖騒動が解決の見込みもないままダラダラと継続中。連邦議会は共和党へのトランプ大統領のグリップが効いており、大統領外遊中には共和党と民主党との打開に向けた話し合いもストップ。こんなゴタゴタが経済に何ら影響も与えていないのも不思議。それでも米国で株は上がり続けている…。本当に米国はどうなっているのだろう…。日本と制度が違うとはいえ、国の行政が滞っているというのに、大統領がアジアでDEALごっこ三昧とは…

トランプのその種の行動ぶりと比べると、施政方針演説で、前述のように高市首相が、「私は日本と日本人の底力を信じてやまない者として、日本の未来を切り開く責任を担い、この場に立っております」との凛とした言い草の、なんと爽やかに聞えることか(我ながら、少し言い過ぎでしょうが)…。

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