鷲尾レポート

  • 2026.01.05

中間選挙の年(2026年)を迎えるトランプ政権~強まる向い風、失われる浮揚力、それ故に、次々と新たな対応策を検討~

トランプ台風を改めて総括しておくと…

2025年1月、それに先立つ1年有余の過酷な選挙戦を勝ち抜いて、共和党のトランプ候補が4年ぶりに大統領職に復帰した。

選挙戦の最中、トランプ候補は、「2020年大統領選挙の敗北は、民主党バイデン候補に盗まれたためだ」との強弁を蒸し返し、有権者の心に、対立する民主党ハリス陣営からのトランプ攻撃――「自らの支持者を扇動して連邦議会を占拠させようとし、“民主主義を覆そうとした前大統領”」との烙印(当時、漸く静まりつつあったのだが…)――を再度惹起してしまう。

こうした“民主主義の敵”とのイメージに加え、厄介なことに、選挙運動期間中に女性問題や選挙資金規制法違反を巡る裁判案件(含む、一審での、幾つかの有罪判決)をも抱え込む…。

“自由”と“民主主義”の牙城・米国で、民主主義の敵、女性の敵と名指され、裁判まで起こされ、敗訴する。通常なら、選挙期間中に、これほどの苦境に立たされれば、精神的に参る筈だが、トランプはそうはならなかった。

人並み以上に自己顕示欲が強く、ナルシスト的性格を持ち、且つ、懲罰好き“retribution”で、しかも攻められれば攻められる程、相手に対して攻撃的になり、加えて、アルコール中毒症的な性格を持つ(alcoholic’s personality)トランプのこと、そんな状況下、意気消沈するよりは、むしろ逆に攻撃的になっていったのだから、この人物、今更言うのも気が引けるが、相当以上に癖がある。

***上記のようなトランプの性格付けは、首席補佐官Susie Wiles女史のVanity Fairs誌へのインタビューなどを基にした、NYTのPeter Baker記者の記事からの抜粋:NYT電子版に乗った同記者の最初の記事タイトルは“Trump‘s Top Aide Acknowledges `Score setting’ Behind Prosecutions”、それが最終版では“Shouting(怒鳴り), Ranting(わめき), Insulting(侮蔑する): Trump’s Uninhibited Second Term”へとタイトルが変えられている; NYT 2025年12月16日、同12月18日等)。

***上記の最初の記事の中で、Baker記者は、Wiles女史がVance副大統領を長年にわたってのconspiracy Theoristと決めつけ、Vought行政管理予算局長をright wing absolute zealot(熱狂者)と呼び、司法長官のPam Bondi女史をCompletely whiffed(軽量級)と評した、と記している。

そうしたトランプ取り巻きへの評価に立脚して、Wiles女史は、そんな周囲に取り囲まれている大統領を、時には励まし、勇気づけるのが自分の仕事だ、と語ったわけだ。

トランプ政権の大統領首席補佐官が、取り巻き連中に対する、こうした諸観察を明言したとの記事を読んだ筆者は、「現大統領の周辺は、太陽神トランプを取り囲む、胸に一物ある諂い者ばかり。トランプの意向が閣内で絶対的力を持ち、その意向から外れると、あっと言う間に太陽圏外に放り出される。故に、周りは唯、大統領の意向に従うのみ。だから、この政権が打ち出す政策には、内部チェックが効かず、今後も色々と問題が出てきそうだ」との感触を強めた。

実際、最近のEpstein Fileを巡る司法省の対応ぶりなどは、元々は当のBondi女史が、自ら右派のインフルエンサーを焚きつけて、この問題に火をつけたようなもの。それが今では、火の粉は司法省の足元に降りかかり、日本の嘗ての森友問題のような、司法省の関連書類不開示が問題になる有様。そもそもBondi女史、司法長官として適格なのか、筆者としては大いなる疑問を禁じ得ない。

***そういえば、かなり前、NYTが”Donald Trump`s Big Gay Government”という記事(2025年8月26日)を載せ、その中で、厚生労働省高官のMehmet Oz 医務官、Howard Lutnick 商務長官、Scott Bessent 財務長官、エネルギー省高官のCharles Moran、更にJohn Phelan海軍長官等など、トランプ政権は、閣内や行政府各所に多くのゲイを抱え込んでいると報じていた。

政権として、一方では性多様性(LBGT)承認を否定しながら、他方では、これだけ多くのゲイを抱え込むのはどうして、との筆者の疑問は今も消えない。

***こうした性格故、選挙期間中のトランプには、謂わば、神がかり的な憑依が再三に渡って観察された。

南部福音派教会の指導者などは、候補者トランプを評して、“大統領になるために神に選ばれたように見える”と言い切っていた。亦、トランプ自身、2期目の最初の議会演説の中で、「MAGAの目的を達するため、私は、(暗殺されそうになっても)神に命を助けられたのだ」とまで、公言している…。

まるでテレビのSHOWのProducerのように…

話を本筋に戻そう。

半ば自分の行動で、身に着いてしまった、前記のような負のイメージにもかかわらず、トランプ候補は、実際の選挙では、彼独自の手法(民主党支持基盤だった“失われた人々【重厚長大型産業従事の労働者】を自己の岩盤支持層化した)と、ナショナリズムの強調にも通じる、America Firstの過激な言動、更には、共和党内での候補者討論会を全て回避するという前代未聞の選挙戦術等などを駆使して、謂わば、彼にしか取り得ない独特の選挙戦を展開し続けた(つまり、共和党内での候補者の座を争う手順を完全無視、最初から最後まで、攻撃の標的を、主敵である現職のバイデン大統領【バイデン退出の後は、ハリス副大統領】に射て続けた等など。この種の執拗さトランプの性格故なのだろう…。

こうした、当初からバイデンに的を絞った選挙戦に特化したのには、トランプなりの計算があったため。何よりも、彼が人目につくことを好んでいること。つまり、自分を主役にしたテレビの番組を制作している気持になっていたことだ。

***トランプの自伝本を読めば、「私は物事を大きく考えるのが好きだ」とか、「私は観客が何を望んでいるか熟知している。そして、その望むものを与える…」、「世間に知ってもらわなければ、価値はないに等しい」、「私は人と違ったことをやってきたし、論争の的になることを気にせずにやってきた…」等など、その行動様式を理解するのに役に立ちそうな言葉がずらっと並んでいる。

もう少し補足しておけば、バイデンとトランプは、ほぼ同年代。共和党内の若い候補と対立すると、自分の歳はハンディとなりかねないが、民主党の相手が同年配だとすると、彼にとっては十二分に勝機がある。

また、言論戦となると、相手がバイデン(後半はハリス)なら、打ち出してくるリベラルなレトリックにも、トランプとしては、対応の術を十二分に心得ているが、共和党内の、若手の右派を相手とするには、自分の論理の一方性と若年層有権者へのアピール力でどうしても劣ってしまう等など…。

恐らくは、そんな諸々がトランプの頭に、当初から、共和党内での討論を避けさせたのだろう。

そして、このような定石を破る手法そのものが、“社会の底辺で不満を託つ嘗ての中産階級、転じて今はその席からずり落ちそうになっている、非大卒の白人労働者たち”に拍手喝采させる原動力となった。

かくして、本来なら民主党支持者であった彼らの、共和党トランプ支持への鞍替えは益々加速されて行った。大統領選挙でトランプが勝てたのは、この非大卒白人労働者の支持を固めたのと、ヒスパニック票の一部を獲得出来たためだった。

***2020年~2024年、つまりバイデン政権下、各種世論調査での有権者の党派別支持率の推移をみると、それまでの民主党優位が崩れ、2024年には民主党49%、共和党48%にまで、支持率が拮抗する事態に転じていた。Pew Research Centerの分析では、この共和党支持率の上昇は、非大卒白人労働者層の民主党離れ・共和党への傾斜が主原因であるという。

***2024年大統領選挙で、ヒスパニック票の一部が民主党候補を離れ、共和党トランプ支持に回ったのは、トランプが不法移民に強硬な姿勢を示していたから…。

つまり、移民として米国に入国し、苦労して職にありつき、それなりの生活をし始めた先住のヒスパニックたちにとって、後から非合法に米国に来て、先住の自分たちの職を奪う不法移民は、同じヒスパニック系とはいえ、自分たちに不利益をもたらす存在と見做したわけだ、故に、そうした不法移民の流入に強く反対するトランプに惹かれたのだ…。

共和党内の独裁者から米国社会の専制君主へ

正式に共和党候補になって以降、トランプはその立場を活用して、党内の選挙対策ポストを身内に独占させ、更には党の選挙資金を一手に握る。こうして、共和党内を完全掌握して行った。

このような共和党組織掌握戦術を取ったのには、第一期政権発足初期、ホワイトハウス内、党組織内で、大統領たる自分が、既存の党内エリート達に攻囲され、結果、孤立したという苦い経験があったからだ。

トランプはそんな経験を長く、深く、根に持った。だから、2018年の中間選挙を機に、穏健派の党内実力者たちを、徐々に排斥して行く。かくして、2期目の政権を担うようになった2025年、そうした、トランプ流の党内浄化は頂点に達し、トランプの意に反するガッツある、党内異分子たちは、今や絶滅寸前

つまり、トランプが何を言い、どう行動しようと、共和党内からは、そうした動きを抑止しようとする意志は表明されなくなっている(それでも叛意を貫く議員たちの多くは、結局選挙不出馬に追い込まれる)。それ程、トランプは党内を牛耳っているのだ。要するに、強権と報復で、共和党内の独裁者に<なったのだ

そんなトランプが、正式に大統領職を手に入れると、議会多数派党内の独裁者たる地位と相まって、本人が意図しているかどうか迄は外部から伺い知れないが、本人独特の考えと行動様式故に、客観事実的には、自ずと米国社会の専制君主と化して行く。

***NPR(National Public Radio;2025年12月9日放送)によると、2026年中間選挙への不出馬を決めた共和党議員の数は29名に上るという。尤も、共和党議員たちのみならず、2026年選挙に不出馬を決めた民主党議員も多く、その数は24名に上っている(つまり、両党合わせて53名:米国連邦議員は下院435名、上院100名で合計535名。つまり1割の議員が退任することになる)。

米国議会も高齢化しており、新陳代謝の時期故だろうが、私見では、単に年齢だけではなく、トランプ時代、何かにつけて意見が極端に別れ、反対者に対する批判や世論の硬直性に嫌気を感じる議員たちも多いことが、このトレンドの根底にあるような気がしてならない。

上記のような状況下、連邦議会では、上下両院ともに、共和党が多数を占めている。加えて、連邦最高裁判所も、共和党指名判事が多数を占め、それ故、トランプのグリップは大いに効いており、為に、トランプが「大統領権限」を根拠に、多種多様な独善的決定を行っても、それを米国の立法府や司法府が即時に抑制する、建国の父たちが期待した、そんな三権分立のチェック機能は今のところ働いていない。(尤も、トランプ大統領が直近、他州の州兵を、治安維持のため、イリノイ州シカゴに派遣しようとした案件では、連邦最高裁は下級審判決を支持して“大統領令の差し止め”を判示した…。

但し、このシカゴ案件での決定は、緊急時の判示で、適用されるのは、このシカゴ事例だけ。言い変えると、他の事例判断の際に参考になる、判例扱いはされないのだという)。

***当初、12月中にも出されると想定されていた、米国国際貿易裁判所の“関税違憲判決”への、上訴審たる連邦最高裁の判断は、結局、年内(年末12月28日現在)には出されなかった。判断が遅れているという事実は、新規の税(関税を含む)賦課は本来、立法府の仕事、それをトランプは大統領権限を盾に行政権の行使で押し切った。そうした論理・既成事実化への最高裁の可否判断が、今、最終審判事たちの間で分かれてしまっている、或いは、少なくとも、即断合意出来る状態ではないのではないか…。

恐らくは、そうした“わずかながらも懸念される”違憲判決発出の可能性を封じるため、最近、ホワイトハウス高官の、「トランプ相互関税が違憲であるはずがない」とのコメントが目に付くようになった(例えば、直近のKevin Hasett経済諮問委員長のCBSテレビ”Face The Nation”の中での発言(2025年11月30日:”We really expect the Supreme Court is giving to find with us”)等など。

更に、相互関税発動の根拠とされるThe International Emergency Actが、仮に最高裁で、発動の根拠としては不適切と判断されても、「トランプ政権には他に対応するプランBがある」と、ホワイトハウスのLeavitt報道官が胸を張った等など(NYT;Tariffs Are Here to Stay, Even if the Supreme Court Rules Against Trump ,2025年11月5日)。

いずれにせよ、上記のような経緯を経て再度大統領に選出されたトランプは、自らの岩盤支持基盤化した“失われた人々”層に加えて、全く逆のスペクトラムに属する金満層をも、仮想通貨の承認や天然ガス試掘の再開、或いは、大幅な減税提唱・実現などで、自己薬籠中のものとし、今や民主主義の総本山米国で、全ては自己の判断の下、大統領権限行使の大義名分で、ある種の専制を実行し始めている

例えば、不法移民の本国、或いは近隣の中南米諸国への送還。不法移民容疑の拘束者を海外の米軍基地に設けた監獄に収監。

更には、現時点では一応の決着を見たが、米国の有名大学を軒並みターゲットにした連邦補助金の供与停止。外国人留学生や海外技術者向けのビザの発給縮小。デモなど、トランプ政権への抗議意思への、州兵を動員しての抑圧。

連邦議会での社会保障関連予算の大幅削減。減税措置の恒久化。前バイデン政権が着手していた、各種グリーン・イニシアティブの撤回。極め付きともいうべき、主要貿易相手国向けの相互関税賦課。各種連邦政府機関の幹部の首切り(直近では、一挙に、且つ理由も明かさず、30名近くの国務省のキャリアー大使の任を解いた)。

予算欠如で連邦の各種行政機関が閉鎖された時でさえ、その閉鎖を予算削減の手段として使った手法(削減対象は、もっぱら民主党系の州内でのプロジェクトが多かった)。更に直近では、麻薬輸入阻止を名目に、軍を使ってのベネズエラの貨物船への空爆等など。

強まる向い風、弱まる政権浮揚力

第2期トランプ政権の滑り出しの時期(2025年1月央)、各種世論調査を平均した大統領への支持率は51.6%だった。その時の平均不支持率は40%。つまり、支持率が約12%も不支持率を上回り、出だしは極めて快調だった

ところが2025年12月央になると、支持率の平均は42.1%に下がり、対して不支持率の平均は54.3%に上昇している。つまり、初期には支持率>不支持率の差が12ポイントあったのに、今では全く逆転し、支持率<不支持率となり、不支持が支持を12ポイント上回るようになっているのだ

では、この変化は一体どのような時期に起こったのか…。

ごく大雑把に言うと、2つの時期が注目される。一つは4月。もう一つは10月

先ず前者・4月だが、何が起こったか…。トランプ大統領が全世界向けに、相互関税賦課を実施した時期。各種世論調査の時系列平均値を見ると、この時期を境に以後、不支持率が支持率を上回り続けるようになる

何故か…、その答えは簡単だ。全世界向けの相互関税は、大統領にしてみれば、公言していた措置を実行に移したまでだろうが、その措置は全世界を驚かせるとともに、米国内の一部有権者をも驚かせた。

その驚いた有権者(無党派層で、大統領選挙時にはバイデンを嫌い、トランプに投票した層。白人の大卒者が多いとされる)が、この大掛かりな関税発動と、それまでの常識に大いに反する政策をトランプが実際に遂行し始めたのを見て、これでは付いて行けないと、大統領に対し、一歩、身を引いたのだ。

2番目の時期・10月には何が起こったか

先ず特記しておくべきは、この時期10月1日~11月12日まで、枯渇した連邦政府予算の手当てがつかず、行政府が閉鎖され、それに対しトランプ大統領が何の手も打たず、対処をもっぱら議会共和党に委ねていたこと。

更に、この閉鎖中、大統領はこれを好機と見做し、前述したように、継続中の各種連邦プロジェクト(その多くは、民主党主導で開始されたもの)を軒並み停止させたこと等など。

***有権者は、そうした大統領の言動を、市民の日々の生活に直結する行政サービスの重要性を余りにも軽んじている、と見做した。結果、無党派層や元々民主党系だったが選挙に際して棄権していた有権者層が、トランプに一層の反感を持つようになった

加えて、米国内で、トランプの反民主主義的振る舞いに批判的な有権者が、行動に出始めたこと。具体的には、10月18日、全米の2700か所で、トランプの専制君主的行動に抗議する“No Kings”ralliesが開催され、700万人が参加した。

***厳密に言えば、この“No Kings”ラリーは、6月に第一回が開催され、その目的は、同時期にワシントンで開催された米軍建軍250周年記念日を祝う祝典に、たまたま同じ日に誕生日(79歳)を迎えたトランプ大統領が、その建軍のパレードを、あたかも自分の誕生日を祝うかの如くに仕立て上げた、その種の専制君主的行動への批判として企画・実行されたもので、主催者発表によると全米で500万人が参加、抗議行動は平和裏に終了したとのこと。

***この第1回目のパレードを、ジョンソン下院議長は“hate America rally”と公言し、他の共和党議員たちも、ラリーの性格を”anti-American”だと決めつけた(NPR2025年10月18日放送、CNN2025年10月20日放送)。

民主主義の尊守を主張する、極めて穏やかに終わった行動を、一様に反アメリカ的と決めつける、このような議会共和党指導者の反応こそが、共和党が如何にトランプに取り込まれているか、自ずと証明したようなもの…。

いずれにせよ、上記諸事情で、トランプ支持率が下降する中、11月4日、東海岸の2州(ニュージャージーとバージニア)の知事選、ニューヨーク市の市長選が行われ、いずれも民主党の候補が勝利を収めた

勿論、これら3つの地域はいずれも、言うなれば民主党の基盤。ここで民主党が負ければ大きなニュースだろうが、負けたのは共和党側。それ故、客観的に観れば、ある意味当然なのだが、しかしリベラル・メディアは鬼の首を取ったが如く、「トランプの政策が自身の生活に悪影響を及ぼし始めた」と有権者が感じているが故の結果だと、大きく取り上げた。

当のトランプ大統領自身は、これら3選挙の敗因を、そもそも、これら地域が民主党の基盤だと指摘はしながらも、「結果は、共和党にとって決して良いものではなかった」と正直な感想を述べている(NYT:2025年11月5日)。

尤も、上記リベラル・メディアが指摘する構図は、今年に入ってから全米で行われた、一連の下院議員補欠選挙の結果に、既に現れていた。例えば、2025年に入り、現在まで、現職の死去や辞任などで空席になった連邦下院の選挙区は5つあるが、それら5つの補欠選挙では、いずれも前年に行われた正式選挙に出馬した民主党候補者が得た得票率に比べ、2025年補欠選挙で新しく立候補した民主党候補が得た得票率が、下段に示したように、軒並み上昇しているからだ。

  

フロリダ1区

2024年、共和党の候補が32ポイントの優位で勝利、
2025年、共和党の候補が15ポイントの優位で勝利
※負けたとはいえ、2025年には、民主党候補は24年比17ポイントも得票増

  

フロリダ6区

2024年、共和党の候補が33ポイントの優位で勝利、
2025年、共和党の候補が14ポイントの優位で勝利
※負けたとはいえ、2025年には、民主党候補は24年比19ポイントも得票増

  

バージニア11区

2024年、民主党の候補が34ポイントの優位で勝利
2025年、民主党の候補が50ポイントの優位で勝利

  

アリゾナ7区

2024年、民主党の候補が27ポイントの優位で勝利
2025年、民主党の候補が39ポイントの優位で勝利

  

テネシー7区

2024年、共和党の候補が22ポイントの優位で勝利
2025年、共和党の候補が9ポイントの優位で勝利
※負けたとはいえ、2025年には、民主党候補は24年比13ポイントも得票増

***要するに、民主党候補は、勝ち負けに関わらず、24年比で25年、選挙戦での得票を大幅に増やしている点がミソ

こうした世論状況を見て、リベラル色の濃い、ワシントンのBrookings InstituteのWilliam Gaiston研究員はそのコメンタリーで、”As President Trump loses support, Republican prospect in the 2026 midterms grow darker”と結論づけている(2025年12月4日)

鮮明になった、民主党の反トランプ・レトリック、It’s Affordability Stupid

上記11月の、バージニア州知事選等の結果が出るまで、民主党は1年後(2026年11月)の中間選挙で、“如何なる選挙戦を展開すべきか”、明確な争点を定め得ていなかったように見える

トランプ大統領の相互関税導入や社会保障予算の圧縮などで、「米国経済はインフレ下での不況に襲われ、人々の生活にも大きな影響が出るだろう」との正統派エコノミストの予想は当面外れ、民主党としてトランプ大統領を批判する決め手を、これまでは見つけられずにいたからだ。

***米国労働省は直近、10月の失業率が4.6%だったと発表した。この数字をNYTは“It is the highest unemployment rate since September 2021”と記述した(NYT2025年12月8日)。

***一方、同じNYTは後日の別の記事で、米国商務省によると、第3四半期の米国のGDPの伸びが年率4.3%だったと報じた。同記事によると、この4.3%という数字は、第2四半期の数字を上回るもので、事前の予測値よりも高かったとのこと(2025年12月23日“US Economic Growth Surged in Third Quarter of 2025”)。

このような、或る意味、“好況・不況どちら付かずの”緩い経済・社会ムードが世間に漂う、そんな中、1992年の大統領選挙で挑戦者・民主党クリントン候補を当選させた選挙参謀James Cavilleなどは、「民主党は当面、トランプに“遣りたいことを“遣りたいだけ”やらせろ」と主張、“遣り過ぎの後遺症”が出るまで事態を静観するのが得策だと、独自の意見を吐く程だった。

***1992年の、民主党クリントン候補が共和党ブッシュ(ブッシュ父親)大統領に臨んだ選挙戦に於いて、今も有名なスローガン“It’s Economy, Stupid(問題は経済なのだ)”を採用したのが、このJames Carville。

当時、ブッシュ大統領は第一次湾岸戦争で、クエートに侵攻したサダム・フセインを追い返し、安全保障政策・国際秩序維持の面で、米国の威厳を大いに高めたのだが、クリントンの選挙参謀だったCarvilleは、そんな国際政治での実績は選挙戦の決め手にならないとして、争点を米国有権者の生活問題にすり替え、クリントン候補が現職のブッシュ大統領を破る結果を結実させた。

いずれにせよ、そうした好不況どちらともとれる経済指標が混在する中、11月4日の東部2州(ニュージャージーとバージニア)の州知事選、更にニューヨーク市での市長選での、民主党各候補の大勝が実現したわけで、選挙関係者は、後付けながら、その勝因が“有権者の将来への不安”だとの見方で一致するに至る。

だから、この好機に、民主党側は一斉に、そうした認識に立脚しての、トランプ並びに共和党批判を強め始めたのだが、その際に使われた反撃用のKey Wordが“Affordability”。

経済指標や雇用指標が、好況不況のどちらにも偏ったものにならない中、「Economy」という直截な言葉遣いは出来ない。だから代わりに、「Affordable、つまりは余裕のある生活が出来るかどうか、が問題なのだ」、という含意を含むこの言葉が、Key Wordに採用されたのだ。Affordableであれば、回答者がどの所得階層に属していようが、つまり金持ちであろうがなかろうが、自分が不安に思えば、affordabilityが低いということになる。

つまり答えは、主観で決まる。主観ならば、その答えの中に、社会のムードが色濃く反映されるはず…。

亦、民主党がこの言葉を振りかざせば振りかざすほど、社会は言葉のニュアンスに左右され、一種の暗示効果も期待できる。

更に、この言葉には、もう一つの政治的含意も込められている。

それは連邦議会の共和党が、来年までのつなぎ予算を、民主党の反対を押し切って議会採択したとき、Medicaidやその他社会福祉関連項目の一部の継続を認めなかった(Affordable Care Actが年末に失効する)からだ。その意味で、共和党が人々の“Affordable”な生活を享受する権利をむしり取った、そんなイメージを、民主党としては、この言葉を使って、共和党側に塗りたくりたいのだ。

一方、経済統計を深堀すれば、これら米国の各種統計が、好不況のどちらとも判断しにくいものになっている点にこそ、現代米国社会の根源的問題が潜んでいることがわかって来る。例えば雇用統計…。

雇用の創出と経済全体の成長は通常なら連動するはず。ところが直近では、両指標は相反する方向を示す場合が多い(前記2つの***で紹介した労働省の10月雇用統計と商務省の第3四半期のGDP統計などは、そうした事例の典型例)。

そして、このような分かりにくさの背景には、急速に進む産業構造の変化、しかもその変化は急速に進んでいる…が存在する。

例えば、米国のテック企業では今、リストラが相次いでいるとのこと(日本経済新聞2025年11月6日)。民間統計によると、2025年1月~9月に、米国大手企業が発表した人員削減数は前年同期比5割増の約95万人に達したという。

景気や失業率統計には、未だ雇用の悪化傾向は明白には示されていないが、大企業は人工知能による効率化を先取りし、「雇用」なき成長路線をひた走り始めている

AI絡みだけが原因ではない。トランプ関税がいずれ国内物価に跳ね返るとの想定の下、物流や消費関連企業も、先手・先手で対応を準備し始め、それ故に、人員削減も急ピッチで増えているとのこと。

そして、この種の動きが人々の心理に影響しないはずがない。

こうした状況下、一方では、米企業の役員報酬はウナギ上りに上昇し、CEO報酬額の中央値は、10年間で5割も増加したらしい。

この点で思い出したのは、1年ほど前の逸話になるが、食品大手企業ケロッグのCEOが、「夕食にシリアルを食べれば、節約できる」とコマ―シャルで自社製品の販売促進を図ろうとしたところ、それがネットで大炎上を引き起こした事例。この大炎上を報じた、1年前の日本経済新聞(2024年6月21日)によると、ケロッグのCEOの年収は442万ドル。

その高額所得者が、5つ星ホテルのレストランで収録したと思しきコマーシャル。それが一般人の顰蹙を買ったのだ。

中産階級が物価上昇に苦しんでいるときに、大金持ちが何をほざくのだ、というわけだ。当時、この逸話を読んだ筆者は、「フランス革命時、パンがなければ、ケーキを食べればよい」と話したマリーアントワネットを思い出してしまった。つまり、金持ちは庶民の生活の実情を全く分かっていないのだと…。

商務省の公表した、直近のGDP統計に関しても、雇用と同じような貧富の差の拡大が、表面の統計数字には必ずしも現われていない現実が示されている。

直近の商務省発表のGDP構成項目を見ると、全GDPの7割を占める消費は年率ベース換算で3.5%伸びたことになっている。だが、最近のBank of Americaのレポート(The Tale of Two Wallets)によると、この消費の伸びも、所得上位20%の消費が伸びたからであって、それ以外の階層の消費は大きく伸び悩んでいるとのこと。

教育水準によっても消費の伸びの大きさに違いが出ているという。ニューヨーク連銀の四半期ごとの調査報告によると、大卒者の消費は年率4%を超えて、前期比ほぼ横ばいとのことだが、非大卒者の消費は明白に減少傾向を示しているらしい。

民主党のトランプ共和党批判、それへの共和党側の反撃戦略は?

経済統計が表面に示す数字より、実際にはもっと苦しんでいる層がいることはトランプ大統領も当然に承知している。そして、そうした不満層の票が、11月の東部諸州での選挙で民主党候補に投じられたことも…。

そうした認識があるが故、トランプ大統領は、一方では、彼自身が議会で成立させた「減税法が実施に移されるまで、辛抱してほしい」と自身の支持者に忍耐を説きながら、他方では、色々な名目で“現金”を、社会の各層に還付する案を次々と口にし始めている。

***2025年に共和党議会が採択した、2017年のトランプ減税法の恒常化、それに今回新しく加わった、レストラン・ウエイターたちへのチップ減税(2025年年初まで遡及される)等など。米国納税者の3分の2が、何らかの形での、税還付の恩恵を受けるはずだとされる。納税者一人当たり、2025年の税還付額は平均3052ドルだった由。それが2026年には3700ドル近くになるだろうとのこと…。

Bessent 財務長官は「2026年第一四半期には、米国民たちも、税還付の恩恵を実感するはずだ」と解説する。トランプ大統領は、支持者たちに、それまで我慢してくれと言っているのだ。

***トランプ大統領は亦、色々な層を対象に、様々な還付案を別途口にしている。

例えば11月には、関税収入を原資とした一人2000ドルの配当金を家計に配ると示唆、12月8日には、対中貿易戦争で中国マーケットから締め出された中西部の大豆農家たちに、総額120億ドルのbridge payment(bailout money)を支払う等など。12月17日には、久しぶりの全国向けテレビ演説で、「軍人向けにクリスマス・プレゼントとして、一人当たり1776ドルのチェックを送った」と公表したり等など…。

***上記の関税収入を原資にした家計向け配当金構想は、Kevin Hasset大統領経済諮問委員長のアイディアと伝わる。この案に対し、Bessent財務長官は、それには議会の承認がいる、と釘を刺したようだが…。

トランプ大統領はその後、この案に触れていない。しかし、一部では、大統領は依然その案に拘ったままで、新年空け後、議会に法案として提出すべく、詳細を練り始めているとも伝わる。どちらが本当か、筆者にはわからないが、もし本当に議会に提案されるとしたら、これは見もの。

大統領が議会に関税を原資とした還付案を正式に提出する。そんな状況下、今の共和党指名判事が多数を占める最高裁が、トランプ関税は違憲だとの判決を下せるとは思えない。つまり、この案の議会提出は、最高裁への政治的けん制効果がある。

また、提出された大統領案に、Affordabilityを強調する民主党は、反対できるだろうか…。反対すれば、折角大統領が提案した、有権者の手取りを増やす案に、Affordabilityを強調する民主党自体が反対することになる。つまり、民主党は、YESと言っても、NOと言っても、自ら傷付く破目になるからだ。

もう一つの戦い;州議会共和党をも巻き込んでの、トランプ専制補強努力

2026年の米国政治を見る場合、もう一つ面白い局面がある。専制統治化への動きは、単に大統領のみが実行しようとしているのではなく、政党としての共和党自身が主体的に行おうとしている形にしているのも亦、トランプ流だからだ。

その具体例は、連邦下院議員の、当該州内での選挙区の区割り修正の動き。

従来ならば、この区割り修正“Reapportionment”は、10年に一度の人口センサスの結果として導き出される各州の人口増減を、そのまま放置しておけば、当該州の人口規模に応じて選出されるべき、“人民代表”と位置付けられている連邦下院議員の重みに軽重差が生じてしまうので、米国憲法の基礎が揺るぐことになる。

だから、10年毎の各州の人口増減を正確に反映させて、人口増の州からはより多くの連邦下院議員が選出され、人口減の州からは、その減少度合いに応じてより少ない議員が選出されるように、修正する仕組みだった。

***例えば南部のテキサス州の人口が10%増え、北部のニューヨーク州の人口が8%減れば、母数たる連邦下院議員総数435には手を付けず、その内訳を、テキサスに10%増分、今までよりは多くの議席を与え、人口の減ったニューヨークには、今までより8%分、議席の割り当てを減らす。

要するに、435議席×(当該州の人口÷米国の総人口)で、下院議席の州ごとの割り当て数を調整し直す。その際、州内の選挙区をどう改編するかは、“1票の重みに差がないように(One Person One Vote)との判例法“で確立された原則を基準とし、具体的線引きはそれぞれの州議会と州知事に任せる)。

***連邦下院議員が人民代表ならば、連邦上院議員は州の代表。それぞれの存立基盤は明確に違えられている。

その修正の意義付けが2025年の今、大きく覆されようとしている

つまり、従来は、10年毎の各州人口の推移を、当該州所在の人民を代表する議員として、ワシントンの連邦議会に送り出す全国一律の修正手続きだったReapportionment
を、2026年中間選挙を前に、当該州からワシントンに送り出す自党議員の数を増やす、唯そのことだけのために、州独自の判断で選挙区調整をやろうとする。そんなゲリマンダリングの動きが、共和党の中から出始めたのだ。

2025年12月25日現在、連邦議会下院の勢力は、共和党220議席、民主党213議席、空席2(民主党議員の死亡に依るテキサス州内の1議席と、同じく民主党議員の辞任による、ニュージャージー州の1議席)。

つまり、下院の共和党議員が4名造反するだけで、下院民主党はトランプ大統領にノーを突き付けることが出来る。こんな剃刀の刃のような薄い多数派では、中間選挙後の、恐らくは、もっと大胆となるはずの、トランプ・アジェンダを追求することは不可能。

だとすればどうするか…。恐らくは、そんな思いに駆られての対応策として、トランプ大統領側近は、上記のようなゲリマンダリングを考え出したのだろう。

先鞭を切ったのはテキサス州の州議会共和党だった。

7月末、年初より選挙区調整を模索していたテキサス州共和党は、州内連邦下院議員選挙区の大幅な修正案を提示し、州議会で成立させた。この修正によると、さもなければ当選していたはずの民主党議員5名が、新しい選挙区では、民主党支持者の数が少ない線引きであるが故に、当選出来なくなるという。

***テキサス州議会は圧倒的に共和党優位、州知事も共和党。

このテキサスの先例に、共和党優位にある中西部各州、例えばオハイオやミズーリ―、更には中西部ではないが、東部ノースカロライナなどが追従した。

そして、事ここに至り、そうした共和党優位州の動きに対抗する民主党優位州が反撃に出始める。最先端を走ったのはカリフォルニア州だった。直近成立した、カリフォルニアの新選挙区マップでは、州内共和党議員の9つの選挙区が槍玉にあがり、そのうち5つの選挙区では、共和党現職の当選が不可能となった由。

つまり、テキサスで民主党現職が5名落とされる分、カリフォルニアで共和党現職が5名落選するという具合に…。

尤も、こうした民主党優位州での、ゲリマンダリングによる共和党議員締め出しは、共和党優位州での民主党議員締め出しよりは難しそう。前述したように、共和党優位州のオハイオやミズーリ―が既に選挙区調整済みなのに対し、民主党優位州のイリノイやニューヨークでは、そもそも共和党支持者がまとまって住んでいる地域が多く、そこを分断するマッピングは大変に難しいとのこと。

各州の担当者は、そうした線引きが仮に成立したとしても、微修正や異議続出の事態を考えると、新マップは早くて2027年以後にしか使い物にならないという。つまり、2026年中間選挙には間に合わない。

***更に問題を大きくしそうなのが、現在、連邦最高裁が審理中の、1964年投票権法が採用している“各州内での選挙区調整の際に、人種の要素を重く考慮すべし”との規定の見直し。1960年代央、リベラル全盛時代に成立したこの法律の、肝の部分に今、保守派が多数を占める連邦最高裁が、違憲の疑いがあるとのメスを入れ始めている。

その裁判の判示次第では、南部諸州(ルイジアナ、ミシシッピー、アラバマ、テネシー等の州)を中心に、中長期的には(つまり、2026年の中間選挙には間に合わないが…)かなりの黒人選挙区が改廃の標的になりかねず、黒人の有権者団体Black Voters Matter Fund and Fair Fight Actinの推計では、最高裁判断の結果次第で、少なくとも19以上の黒人選挙区が見直しの対象になり、それらの選挙区を基盤とする黒人候補の当選が危ぶまれる事態となるという(NPR;2025年10月18日放送)。

上院では共和党優位は維持される見通しのようなので、上記下院での共和党優位州でのゲリマンダリング選挙区調整の行方にこそ注目しておく必要がある、というわけだ。

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