鷲尾レポート

  • 2026.01.22

2026年初頭に観る、トランプ権力の本質~異常なまでの権力の個人専有化~

2026年も年初からトランプ旋風が吹き荒れる年となった

先ず1月初旬、トランプ大統領はベネズエラに米軍特殊部隊を送り込んで同国の大統領夫妻を拉致、そのままニューヨークに連れ込み、ベネズエラのギャング組織を使って麻薬を米国に大量に密輸出した等の犯罪行為を名分に、米国の裁判管轄権の下、ニューヨークの裁判所に起訴する挙に出る。

こうした行いを、トランプ側近は言うに事欠いて、米国の措置は司法行為であって、それ故、戦争ではない。故に、1973年のWar Powers Resolution(大統領の戦争行為は、事前、或いは事後に、議会の了承を得なければならない)は適用されないのだと主張していた。

***米国司法省のElliot Gaiser法律顧問は昨年12月23日(トランプ大統領のベネズエラ介入の11日前)、国内法が国際法に優先するのだからとの主張を前面に、大統領は国連憲章などの条約(たとえ、それが米国上院の批准を得たものであっても)をoverride出来る,とのメモをホワイトハウスに提出していた(NYT2026年1月13日:“Justice Dept Memo Said Trump could Send Troops Into Venezuela Unilaterally”;

***尤も、ベネズエラ攻撃の直後には、トランプ政権も議会からの説明要求を流石に拒むことは出来ず、へグゼス国防長官やルビオ国務長官らが、議会指導者たちに、同国への軍事作戦についての、初の説明を行った。その説明のための秘密会での席上、ルビオ国務長官は、「事前説明をすれば、情報が洩れて、作戦が危険に晒される恐れがあった」と釈明した由。

***議会上院は、上記の行政府から議会指導者への説明の直後、新たな行動に出ている。ベネズエラからの同国大統領夫妻拉致直後の1月8日、上院民主党は、“ベネズエラで更なる軍事行動がとられる場合には、議会の事前同意を必要とする”旨を再度明示する決議案の採択に向けた審議を進めるための”手続開始提案を採択した。その開始提案“procedural vote”の評決は、賛成52票、反対47票。民主党全員が賛成、それに加えて、5名の共和党上院議員たち(Susan Collinsa of Maine, Josh Hawley of Missouri, Lisa Murkowski of Alaska, Rand Paul of Kentucky, Todd Young of Indiana)も賛成した

注目すべきは、賛成に回った上院共和党の5名は、これまでも折に触れ、トランプ支持で凝り固まった共和党主流派と袂を分かつケースが多く、この手続き決議案の上院採択直後、トランプ大統領は自身のTruth Socialで、この5人の“馬鹿さ加減”を批判し、「彼らを二度と公職に選ばせてはならない」(should never be elected to the office again)と言い放った(NYT 2026年1月8日)。

そして、この厳しい批判の言葉が象徴するように、この5人へのトランプ大統領側からの風当たりは強くなり、その後、Hawley議員とYoung議員は、へグゼス国防長官から「トランプ大統領は今後、ベネズエラに米軍を展開しない」との言質を得たとして、当初の決議手続き開始案への支持を撤回、開始案が本会議にかかった時には、実際に反対に回っている。つまり、態度を一変させたのだ

これなど、トランプ大統領や共和党指導部が舞台裏で、言うことを聞かない議員たちに如何に激しい圧力をかけているか、そうした実態を垣間見させてくれる話ではないか…(5人の内2人がトランプ大統領の軍門に下った結果、この上院の“手続き開始案”は結局、上院本会議で共和党の主導によって否決された)。

だが、これで上院共和党内のトランプ大統領を牽制しようとの動きが止まったわけではない。直近では、トランプ大統領が、グリーンランドを軍事力で確保しようとするかもしれないとの懸念から、上記の、大統領の圧力に抗して残った3人を中心に、軍動員阻止に向け、予め備える動きが出て来ている模様。

***下院でも、トランプ大統領の意図に反する行動が、微かではあるが見られ始めた。年末の議会採決で決まった暫定繋ぎ予算の延長期間は本年1月末まで
それ故、実際の必要上から言えば、2月以降の予算手当て(米国の会計年度は前年10月―本年9月)のため、再度の暫定予算の再延長手続きが必要なわけだが、その延長審議に際し、共和党のジョンソン議長らが12月末で一度は廃止を決めたAffordable Care Actを、“本年1月以降も、今後3年間継続延長する条項“が、民主党の一致した要求と共和党17名の造反で、賛成230票、反対196票で採択されたのだ。

Affordable Care Act(ACA)の廃止は中間層以下の有権者の間では極めて不評、本年11月の中間選挙で、そうした中間層や下層有権者の不満に直面しなければならない、特に民主系・共和系有権者が錯綜する選挙区選出の共和党議員たちは、それ故、今回、共和党ジョンソン議長の制止を振り切って、民主党議員たちの動きに呼応したわけだ。議員達にとって、選挙の年、何よりも有権者の怒りが怖いというわけだ。

こうした共和党内の不安心理を和らげるため、トランプ大統領は1月15日、自前のヘルスケア制度改革案を新たに提示する、と発言している(内容詳細はいまだ不明)。

***下院では直近、共和党のジョンソン議長の党内統制力が落ちてきている。1月13日、下院本会議では、ジョンソン指導部が進めていた、労働者保護規制の緩和を目指す、関連3本の修正条項がいずれも、本会議審議の席上で、民主党こぞっての反対に加え、6名の共和党下院議員たち(Bob Bresnahan, Brian FitzpatrickいずれもPa州、Nick Lalotta NY州、Riley Moore West Va州, Chris Amith, Jeff Van Drew; いずれもNJ州)の造反によって、否決されたからだ。

本年11月の中間選挙を前に、トランプ支持基盤の2枚看板—-忘れ去られた人々と金満の株式投資家・企業経営者層—-の利害が、ここにきて合致しなくなってきている現実が、こんな処にも次第に顕在化してきたのだ(ビジネス経営者層受けを狙っての規制緩和に向けた動きが、たとえその一部条項とはいえ、工業州の労働者層の不利益につながるとの判断故、そうした地域選出の共和党議員の反対で阻止された)。

こうした、選挙を控えての、もっぱら下院議員たちの利害錯綜の形を取って表面化した、トランプ支持基盤の亀裂の予兆は、ジョンソン執行部にとっては痛手であるに違いない。(The move by some of those moderates to block Tuesday’s labor proposals is an indication that GOP leaders will also have a hard time passing even partisan messaging bills; The Hill Report,1月13日)

***上記のような揺れ動く有権者心理を反映したのだろうが、2026年1月15日に公表された、The Cook Political Reportは、11月の中間選挙で、これまでは拮抗と見做されていた幾つかの下院選挙区で、情勢が民主党優勢に変わりつつあり、このままでは選挙の結果、下院での共和党優位が崩れ、民主党優位に変わる可能性が高まっていると指摘する。

本題に

トランプ大統領は、同国指導者を連れ去った後のベネズエラを、米国が運営するとも宣言、世界最大の石油埋蔵量を有する同国の権益確保を念頭に、米国のベネズエラ運営に米国石油企業の積極的投資参加を促す旨、半ば既成事実的に、且つ一方的に宣言した。逆に言えば、トランプのベネズエラ冒険に、米国石油業界を共犯として取り込む意図を明らかにしたのだ。

しかし、後日、米国石油業界の首脳をホワイトハウスに招いての会議では、参加各社の首脳たちは、現状では、“今すぐの投資参加”は難しく、検討のための時間が必要との消極的姿勢に終始し、エクソン・モービルのDarren Woods最高経営責任者(CEO)に至っては、同国への投資は現状では無理だと明言した。

石油業界の、こうした消極的雰囲気に対し、トランプ大統領は、Woods 発言の直後、エクソン・モービル社のベネズエラ権益への参加は認めないとの発言で応じたが、こうした威嚇と報復に類する言動は、今や、正体を露にした専制統治者トランプの実像を直截に表しているではないか…。

***ベネズエラの石油権益処分に関して、米国の手による最初の原油売却が5億ドルの取引で成立したとの情報が流れている。売却代金は複数の銀行口座に振り込まれた由(当該情報の中では、カタールの銀行が例示されている)。いずれにせよ、不透明な取引の感を拭えない。

***そもそも、ベネズエラが、犯罪者たちに支配された政権だという、米国情報機関の当該情報そのものが、トランプ大統領の認識や意向に沿う形に、当初の内容が修正・書き直されていたと、昨年5月、NYTが報じていた

その情報修正記事のタイトルは、Official Pushed to Rewrite Intelligence So It Could Not Be “Used Against’ Trump”)。そして、この記事のサブタイトルも、“An assessment contradicted a presidential proclamation. A political appointee demanded a repo, then pushed for changes to the new analysis, too ”とある(NYT2025年5月20日)。

要は、大統領の認識や既存発言に沿う形に、情報機関の分析内容を事後修正させたという趣旨の記事。同記事は、更に、米国情報機関の当初のレポートには、“ベネズエラのギャングたちはMaduro大統領に支配されてはおらず、亦、ギャングたちは米国内での犯罪行為には関与していない”、と記述されており(唯、これらの認識については、FBIからは異論が出されていた)、そうした報告内容が当初、トランプ大統領に提出されていたにもかかわらず、当時、トランプ大統領は、その報告内容とは反対の認識に立脚して、米国内のギャングたち(不法移民)を、1978年Alien Enemies Actに基づいて国外に放逐する決定を下したという

つまり、大統領が判断を下す、その根拠となる情報内容が、事後的に、大統領の認識に合わせるように修正された。もしこの記事が正しいのなら、これも亦、トランプ大統領の判断が、彼個人の認識に基づく恣意的なもので、本件は文字通り、専制的統治者の意向通りに国政(含む、情報)が動いた、そんな典型例ではなかったのか…。

話を再び元に戻すと、筆者には、最近、トランプ大統領は、自国の軍事力をもてあそび過ぎているように思われてならない。今回のベネズエラ攻撃は、キリスト教徒の保護を目的にナイジェリア北部をクリスマス時期に砲撃した、その僅か1週間後のこと

遡れば、昨年夏にはイランの地下核施設を爆撃している。そうした実績を恐らくは基にして、直近では、イラン国内での反政府騒動の中、イラン政府がデモ隊を弾圧すれば、米国はイラン空爆に踏み切るとの警告を公然と口にする(実際に弾圧が起り、イラン制裁のため、同国と取引する国に懲罰関税を課すとの発表が行われた)等など

では、上記のような、軍事力をもてあそぶトランプ大統領の行動を、米国の有権者たち、とりわけ共和党支持者たちはどう見ているのだろうか…。

ベネズエラに即して、一言で言えば、作戦の成功、従事した軍人の命が失われなかったこと、米軍の強さを世界に示し、且つ、賢明にもHit and Runで剣を収めたことなどで、あくまでも直近での評価だが、共和党支持層は大いにサポートしているというのが実情だろう(直後のReuter/ Ipsos世論調査では、共和党支持者の65%は支持、対して不支持は僅か6%。どちらとも言えないが、29%だった:NYT 2026年1月9日;Why Many Republican Voters Support Trump’s Use of Force in Venezuela)。

この記事はしかし、結論として、“ベネズエラ”や外交政策は、有権者の一義的関心ではなく、彼らの関心は今でも、インフレや経済にあるのだと指摘しているのだが…。

***軍事行動が、トランプ支持率を高めている、その理由を解き明かすKey Wordは、上記の“hit and Run”。つまり、叩いては、すっと引く。つまり深入りしないのだ。叩かれた方も、報復を控える

だから、米軍は泥沼に引き込まれない。もしかりに、現在のイラン政府が言っているような、攻撃を受ければ報復する、そんな状況が招来されれば、しかもそれが長期化するようになれば、今までのように、トランプが好きな時に軍事力を行使し放題という状況も、当然、是正されざるを得なくなるだろう。

トランプ大統領は次々と有権者の関心をシフトさせる名人。ベネズエラで度肝を抜かせたかと思うと、すぐにグリーンランドに焦点を移す

更に、ルビオ国務長官をキューバの大統領にするなどとほのめかし、亦、人々の関心が経済にあると見れば、クレディット・カードの利子の上限を10%に制限するアイディアをぶち上げ、連邦予算の支出絡みで連邦準備制度のPowell議長が不正を働いていた疑いがあるとして、司法省に捜査着手させる等など…

特に最後の経済関連の2項目などは、近々、経済が少しでも悪化の兆候を見せれば、中間選挙対策もあって、FRBに即時に金利を引き下げさせるための地均しのようなものだろうが…

***上記クレディット・カードの利子上限を規制する案は、元々は民主党左派のアイディア。それを今度はトランプ大統領が横取りした形。そんな無理筋のアイディア故に、共和党右派が猛反対。

こんな紆余曲折を外野席から見せられている筆者などは、トランプ大統領の時折々の便宜主義的やり方が目について仕方がない。第一期政権時代のトランプ批判の中に、「トランプは即興で工夫するのが自分の強みだと思っている」との件があったが、その場その場での一瞬の閃きで目先の決定を行う、この政権の政策決定の危うさが脳裏に焼き付いて離れない。

***パウエル議長への司法省調査着手に関しては、トランプ大統領は何も聞いてはいない、と言っている…。

***欧州各国の中央銀行総裁たちは、連名でPowell支持を公言した。米国内でも歴代の財務長官経験者やFRB議長経験者たちは同じく連名で、トランプ政権の姿勢を批判した。トランプ大統領の専制的手法による金融世界への介入に、世界の金融政策指導者たちは嫌悪感を拭えないのだ。

上述に加えて、新年早々、米国世論を沸かせているもう一つの分野は不法移民対策

周知の様に、米国内での不法移民摘発は国土安全保障省“Department of Home Land Security”下のImmigration and Customs Enforcement(ICE)が担っている

トランプ候補は選挙期間中、当選の暁には不法移民対策を大幅に強化すると誓約していた 。そして事実、大統領就任後、100万人の不法移民を国外退去させると公言(昨年10月末までに、実際、50万人を国外退去させた)、そして今では、単にメキシコやカナダの国境線での不法越境摘発だけではなく、米国内各都市などにも摘発の範囲を広げている。

***トランプ大統領が就任1年目に議会採択させた予算(One Beautiful Bill)では、ICE予算が3倍増となった。それ故、ICEは急遽人員を補強、不法移民取り締まりの範囲を、一方では合法移民の入国拡大阻止にまで広げ(難民審査の厳格化や合法入国者のグリーンカード取得枠の縮小措置等など)、他方では、上記のように、不法移民が米国に侵入する南のメキシコ国境から、捜査の範囲を米国内諸都市にまで拡げ、それら諸都市での既存不法移民洗い出しを推し進めるようになった。

捜査対象となった諸都市は、もっぱら西部や北西部の民主党基盤州。事件は、新年早々、そうした捜査対象となった2つの州(ミネソタとオレゴン)で起こった。捜査の過程で、ICEの捜査員たちは、捜査への抗議者・或いは被疑者たちに発砲、ミネソタで1人、オレゴンで2人を死亡させたのだ。

事件を報じるCBSニュースやABCニュースの電子版を見る限り、ICE側の行き過ぎを指摘するニュアンスのものが多かったように思われ、筆者は、いずれの事件もICE職員の過剰発砲だと観るが、トランプ政権は、射殺された抗議者や被疑者が、ICEメンバーを車でひき殺そうとした、との見方で強硬姿勢を崩さない

***ICEの新規職員には、人員枠急増で急遽補強されたメンバーも多く、不法移民捜査の手法も結構荒っぽい印象。事件を報じる電子版テレビの画面を見る限り、ミネソタで射殺された女性などは、車の向きを変えて逃げようとしてゆっくり右折している処を、車の前方にいたICE職員にフロント・ガラス越しに、顔面を狙撃され、恐らくは即死。事態が、発砲を必要とするほど、そんなに窮迫していたとはとても思われない、というのが筆者の素朴な感想だった。

これら事件が発生した直後、ノーム国土安全保障省長官やバンス副大統領が、いち早くICEの措置は間違っていなかったと断言、トランプ大統領がそれら高官たちの発言を擁護、FBIの検死調査も終わらない時点での、そうした一方的発言がミネソタ、オレゴン両州の一般市民や、両州政府関係者の神経を逆なでしたのも宜なるかな…。いずれにせよ、結果、直近、ICE メンバーによる、こうした抗議者や被疑者の殺害事件を巡って、これら両州と連邦政府との対立が激しくなりつつある。

***ミネソタは、2024年大統領選挙で民主党ハリス候補と組んだ、ウオルツ副大統領候補を出した州。ウオルツ候補は今でもミネソタ州知事(2026年知事再選選挙に際しては、不出馬を宣言してはいるが…)。

こうした事情から、今回のICEの不法移民狩りの同州内での捜査強化を、大統領選挙時のウオルツ知事の行動への報復と見做す向きも一部にはあるようだ。

メディアのICE批判的トーンのインタビューなどを見聞していて、トランプ候補が大統領就任後、リベラル・メディアの選挙期間中の、どちらかというとトランプ候補に厳しかった報道ぶりに対し、CBSニュースやABCニュースを提訴し、多額の和解金を勝ち取った裁判事例を思い出した。

更にその後も、トランプ大統領はWSJやLA Times、それにNYTなどを提訴しまくっている

直近では、Washington Postの女性記者が政府の機密情報を不法入手したとの疑いでFBIに自宅を捜査されたが、この種の、メディアに対するトランプ政権の嫌がらせや、或いは威圧的行動は、やはり歴代政権に比べて、目立つと言わざるを得ない。

***この点で興味深いのは、トランプ大統領には一方ではリベラル・メディアを目の敵にしながら、他方では、自分に対して厳しい、そんなリベラルな報道機関に、取材されるのを喜んでいる節があることだ。

いわば、Love and Hateの関係とも言えようか…。言い換えると、それ程までに、トランプはメディアや政界関係者、外国政府首脳などから直接にアクセスされたいのだ。

つまり、それ程までに自己承認欲求が強い

***こうした絡みで面白いエピソードがある。今回の米軍特殊部隊のベネズエラ侵攻、同国大統領夫妻拉致に関連して、その第一報(ワシントン時間午前1時;米軍が攻撃中との報)をカラカス駐在の同僚記者から受け取ったNYTワシントンン支局の Tyler Pager記者(ホワイトハウス担当)が、トランプ大統領が自身のTruce Socialで“米軍がベネズエラ大統領夫妻を確捕、身柄をベネズエラから連れ出した”と公表した(午前4時21分)直後、これまで一度もかけたことのない大統領の個人携帯に、思い切って直接電話を入れる(午前4時30分)と、なんと本人が出て、記者からの質問に直接答えてくれたという。

そうした直接のコンタクトの結果、5時間後の午前9時45分には、Pager記者はワシントンからフロリダに飛び、大統領のフロリダの別荘内の正式の記者会見場に、十分な余裕をもって(セキュリティー・チェックのクリアランスを経て)、辿り着くことが出来た、のだそうな…。

恐らくは、トランプ大統領のそうしたNYT好きが高じたのだろう。大統領は1月7日(水曜)の午後、4名のNYT記者をホワイトハウスの執務室に招いて、約2時間、独占インタビューの機会を与えている。そのインタビューでの、トランプ大統領の発言骨子は次の通り(NYT;2026年1月8日)。

米国大統領としての自分の力は、国際法や軍事力行使(他国を攻撃・侵入、或いは威圧する)を制御する諸々のチェックには制約されない。抑制するものがあるとすれば、それは自分自身の道徳心のみ…。私には国際法は必要ない

(My power as commander in chief is constrained only by my “own morality”, brushing aside international law and other checks on my ability to use military might to strike, invade or coerce nations around the world…I don’t need international law)。

記者たちから、それでも国際法の尊守は必要ではないかとしつこく聞かれると、トランプ大統領の答えは…「もちろん守る…それは調整者・裁断者として…(He made clear he would be the arbiter when such constrains applied to the US)」というものだった。

インタビューを記事化した記者たちは、こうしたトランプの考え、つまり、米国の優位を固めるための、軍事力、経済力、政治力行使のFree- Handの強調は、これまでのトランプ大統領の各種メディア・インタビューの中でも、彼の世界観を最も無遠慮に吐露したものだと結論付け、更に、国と国とが衝突する場合、重要なのは法でも、条約でも、会議でもなく、その優劣を決するのは国力そのものだ、との大統領の認識を紹介している。

(At its core is the concept that national strength, rather than laws, treaties and conventions, should be the deciding factor as powers collide)。

トランプ大統領は亦、インタビューの中で、自身の予測不可能性とすぐに軍事力に頼りたがる性癖は、相手国を威嚇する有効な手段だと言ってのけている。

NYTの記者たちは更に、グリーンランドを確保するのと、NATOを保存するのと、どちらを優先させるのか、とトランプ大統領に問うたが、大統領は、この質問に直接は答えなかった。しかし続けて、“It may be a choice”と付け加えた由。

こうしたやり取りから、NYTの記者たちは、米欧大西洋同盟は米国がいなければ役立たないと、大統領は考えている(“he made clear that the trans- Atlantic alliance was essentially useless without the US at its core”)と結論付け、記事を締めくくっている。

トランプ大統領、第2次大戦以後の、米国のどの大統領も恐らくは“憚る”多くの言葉を、実にあっけらかんと口にしたものだ。

***上述のような国際関係に占める米国の“重み”、延いては、そうした関係の中での“米国大統領、つまりは自分の強大な権力を、トランプは、米国内統治システムの中ではもっと強烈に意識している”。

民主党オバマ政権時代のSteven Rattner元財務長官は、そんなトランプの専制君主意識が、議会を無視し、先例を破り、大胆に大統領令を多発して、“Going my way”を行く姿勢の根本にあると指摘する(Trump’s First Year Back ,in 10 charts: NYT guest Essay, NYT 2025年12月27日)。

***第2次トランプ政権の初年度、トランプが発出した大統領令の数は225本、この数は、過去40年の歴代大統領が初年度に発出した平均発出数の3倍にも達しているという。

***大統領がこうも多くの命令を発出すれば、議会の立法の数も減って来るのは、或る意味当然かも知れない。今119議会第一年目、議会が成立させた立法の数は61本。立法数が少ないのは、議会上院で与党共和党が野党のフィルバスターなどを回避する60票を、持っていないのも大きな一因だが、それにも増して、大統領が矢継ぎ早に行政命令で事に処してきたからという要素も無縁ではあるまい。

とは言っても、トランプの発出する大統領令の多くに対し、憲法上の異議を理由に、個人や企業、州政府等などが訴訟を提起しており、2025年に提訴された案件は合計358件。内149件では、裁判所(多くは下級審)が、大統領令の差し止めを判示している。100件余は、裁判所は大統領令の効力を認めたが、未だ審議未了の案件が100余件残っているとのこと。大統領令の後始末も結構大変。

レポートのまとめ

今回のレポートもまた長くなり過ぎた。

以下に最近読み返した本から、本レポートとの絡みで、幾つかの気になった個所の抜粋を取り上げ、参考資料として付記、本稿の締めくくりとしておきたい。

先ず、引用しておきたいのは、「近代国家としては稀有なほどに個人化された権力を、何故、人々は受け入れ、権力者の意に沿って働くようになるのか…」。「カリスマ指導者は、市井の人々の憤慨と現実に白黒をつけたがる大衆の先入観に上手く訴える術を知っていた…」

彼は、幅広い問題に一人よがりの説を展開して会話を独占するのを常とし…自分の独学を信じた指導者は、形ばかりの教養に依存する知識人を軽蔑した…彼は、自分を支持してくれた同志に強い忠誠の意識を持っていた…彼は亦、自分の理念の正しさを疑うことは一度もなかった…しかし彼の内面では、自己に対す自己評価と社会的アウトサイダーとしての現実の自分とのギャップから生じるフラストレーションの捌け口を、一層ネガティブなイメージを持つ存在に向けることを常とした…」

彼は、独裁的権力を獲得するために前もって練られた戦略によってそのようなカリスマ的装いを得たというよりは、自分ではどうすることもできない状況に対する熱っぽい、ごく自然の継続した反応によって、そうした装いを自然と身に着けたのだった…。彼が絶対権力を握るようになると、彼を頂点とする統治機構の中では、第二位の指導者たちは、彼への献身と忠誠の度合いを競い合うようになる

第二位以下の指導者たちにとっては、自分の出世の可能性が偏に彼に依存しているからだ…。カリスマ的指導者は、実際の個性や性格は兎も角として、人々にどう感じ取られたかが、決定的に重要であることを熟知している…」等など。

引用しておきたい箇所は未だ限りなくあるが、上記ぐらいにとどめておくのが無難というもの…。この本は、英国を代表するドイツ史の権威、Ian Kershawの著作Hitler:日本語翻訳本のタイトルは「ヒトラー権力の本質~~ヒトラーはこうして“カリスマ”となった;(ヒットラーは、ヒットラー個人の性格分析だけでは説明できない)~~」。

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