【高市首相訪米外伝】トランプ大統領の国外での戦争、国内での闘争~人の運命は性格の必然(芥川龍之介の言葉)~
「私の取引のやり方は簡単だ…狙いを定め、求めるものを手に入れるまで、押して、押して、押しまくる。…取引を上手くやる能力は、生まれつきのものだと思う。一番大事なのは勘だ…」(トランプ自伝より)。
2026年に入ってからも、相変わらず米国内外の政治にトランプ旋風が吹きまくっている。
例えば、1月には国土安全保障省の手を通じ、不法移民摘発の網を今までの国境周辺から米国内に大きく拡げた。或いは、関税引き上げの米国経済への影響波及を和らげる目的で、住宅ローンの金利引き下げを狙って、政府系金融機関に不動産担保証券の購入を指示した。更に、対中関税引き上げの農家への影響を考慮して、中西部農民層への支援策を強化した。加えて、中国のレアメタル輸出停止に対応して、米国レアメタル生産企業への政府出資を行った。
こうした措置はまだまだ続いた。
不法移民対策の一環として、移民ビザの発給を停止した。金融政策の遂行に自身の意向が行き渡るように、次期FRB議長にウオーシュ氏を指名、パウエル現議長の影響力減殺を目指した等など。
つまり、外野席から見ている筆者などには、当初投じた一滴の波紋が、次々と社会各部に拡大してゆくように見え、トランプにとっては、それは新規の課題が次々と顕在化してくるように映るわけで、彼のギャンブル性癖が刺激されっぱなしの状態なのだろう。
いずれにせよ、こうしたトランプ流のやり方を見ていると、自分が打った当初の手段(例えば、全世界向けの相互関税賦課や対中関税戦争)の国内経済・社会への反響が大きくなりそうだと察知すると、その悪影響が出る直前に間髪入れず自分なりの予防・対応を講じようとする。
つまり、そうした予知能力の鋭さこそが自分の特性だと、トランプ大統領は自覚(自慢)しているのだ。しかし、そうした悪影響排除の対応姿勢も、幾つかの措置が連鎖的に続くようになると、結果、大きくは二つの方向が不可避となってしまう。
一つは、当初目的の大元を離れ、策が益々細分化し、個別現象への受け身対応的色彩が強まる。そうした政策の打ち出し方が世間に与えるイメージは、“体系化されていない『思いつき対策』の積み重ね”といったもの…。
二つは、新しい方向への転換。要は、トランプ大統領の関心が次なる目的に転換するのだ。いわば目晦まし。
何故そんな細分化の迷路にはまり込んでしまうのか…。そして、何故、大統領の関心領域が急変するのか…。
先ずは最初の問題から。
恐らくそれは、当初打ち出す政策そのものが、行政府各担当部局での精密な熟考を経ていないためではあるまいか…。
振り返れば、第一期トランプ政権は、内部統制に混迷を極めた。トランプ自身が打ち出す政策の方向に、政治任用の行政各部の長官たちはもちろん、各官庁の専門家たちが、こぞって反対する機運が強かった。為に、トランプは何人の国防長官、司法長官、大統領補佐官の首を切らねばならなかったか…。第一期時代のトランプ大統領は、政治アマチュアとして、極端に表現すれば、共和党主流などからは“軽蔑”の対象ですらあった。
そうした反省は、第二期目の政権を担う際、トランプが最も重視した処だった。「人事」が最も重要であると…。
トランプ第二期政権は、第一期時代よりは強固な基盤を築き得ていた。米国社会の変貌を反映し、産業構造転換に取り残され、株式資本主義の恩恵を掴み損ねた“忘れ去られた人々(非大卒の重厚長大産業の工場労働者層)に加えて、南部福音派のキリスト教徒を己の影響下に従えることにも成功したからである。恐らくは、この二つの有権者層だけで、全米有権者の35%前後を占めるのではあるまいか…。
つまり、この層をしっかり握っていると、最低でも35%の支持基盤は崩れないのだと…。MAGA派と称されるトランプ支持層はこういった人たちで構成されている。
トランプ大統領が第一期政権時からイスラエルのネタニエフ首相と中東問題で手を取り合うことが多かったのも、政治支持基盤という観点からは、米国で多大な影響力を有するユダヤ票を取り込む意図があったためではなかったか…。だからこそ、現状、中東に関する限り、トランプは大筋で、ネタニエフ路線から離れられなくなってしまっているようにも見えるのだ。
そして、こうした二重、否、ある意味ではユダヤ票を入れると三重、に構築した国内の岩盤支持層を梃に、選挙心理に弱い議員たちを篭絡して、トランプは共和党をある意味乗っ取り、今や共和党内の絶対権力者・オーナーの立場を確保している。
結果、このような共和党内権力基盤の独占化は、トランプ大統領の政策選択自由度を増し、専門家の意見に縛られない、或る意味で彼独自の見方の方向に、政治を一気に持って行くことを可能にしたのだ。
第一期政権時の側近だった、スティーブ・ヴァノンは、当時、トランプ政権の本性を次のように述べていた。「トランプ革命とは、型にはまった思い込みや専門意見への反撃だ」と…。彼は次のようにも付け加えていた。「トランプ大統領には、敵の弱点を抉り出す鋭い嗅覚と、敵が心の底に秘めた欲望を見極める直感が備わっている」と…。
第一期トランプ政権の内幕暴露本、Fire and Furyの中で、著者マイケル・ウオルフは更に、次のようにも記している。「彼は根っからの自惚れ屋。専門家を軽視し…、相手に対し自分に注意を払うことを要求しながら、相手がそうすると卑屈な奴だと決めつける…」。「トランプは、自分にとって意味のあるテーマを語り、次にその興味の対象分野について、相手に語らせる…」。「トランプは常に語る側に回ることを好む…」。「トランプが何かに気を留めるのは、限られた情報が既に彼の頭にあり、彼の頭の中で一定の見解となっている場合のみ…」。「そんなトランプは、権威的な強い人物に惹かれる傾向がある…」等など。
要は、こうした彼特有の性癖は、第二期政権を手中にした今、その傾向を決定的に強めているとみるべきなのだ。彼も6月には80歳。人は年を取る程に、頑迷固陋となるのが常なのだから…。
そもそも、そんなトランプが最初に行動を起こす、その初動の政策そのものが、前述のように、配下の行政機構内で十分な熟考を経てのものではない。トランプ自身の頭の中で問題をひねくり回し、己の出した結論を夜中の自身のSNS媒体を使って、一方的に発表する。
行政の下部機構は、そんなトランプ大統領が発する、Truth Socialなどの媒体を見て、初めて政策の方向性を知ることになるケースが多いとか…。
勿論、そうして下された大統領の大筋の決定を、どういう形で実行するか…。そこから先の詳細な準備は、当然に各官庁の仕事だろうが、肝心の事前の影響予見などには、下部機関は殆ど関与していないのではないだろうか…。
***勿論、こうした記述は極端であろう。少なくとも政権幹部との間で、大まかな方向性や、どこまで踏み込むかの話は当然に為されているであろう。しかし一方では、その方向性の決定以前に、全体の戦略像を見渡しての、詳細な各所での影響分析まではとても行われているとは思えない。
この点を外交・軍事政策に即して言うと、常のホワイトハウスであれば大きな発言権を持つ“National Security Council”が、現トランプ政権下では、人員は削減され、この分野担当の大統領補佐官は前職が国連大使に転出した後は補充もされず、ルビオ国務長官が兼務した形のまま。
要は、国家安全保障の観点から、ホワイトハウス内で大統領に助言し、大統領の意図がどの程度実現可能か、事前に十二分にチェックする、そんな機能が存在しないのだ。
***例えば2月28日のイスラエルと米国の軍隊がイラン空爆を始める前、本年の1月頃から、トランプ大統領はイランが原爆開発計画を縮小しなければ、同国を攻撃するとの警告を自らの口で発したが、その時点で米国防省の準備はまだまだ出来ていなかったと、NYT紙は伝えている(As Diplomats Talk, Pentagon Prepares for Possible War with Iran ~~President threatened to strike Iran, but the military has needed time to build up its forces in the region:Feb 13, 2026 )。
要は、大統領の口撃が国防省の準備に先行するのだ。それ程に、この高齢大統領は、自分の思いついたアイディア実現に向けて、彼なりのタイミングを重視して、性急に動いてしまうのだ。
***事前チェックの不足という点で加えれば、トランプ大統領がイラン空爆を公言し始めた頃、ライト・エネルギー省長官は、イランがホルムズ海峡を閉鎖する可能性について、「昨年6月にイスラエルと米国がイランを空爆した時、イランはそんな封鎖の素振りを見せなかった」と指摘、「今回も同じだろう」との憶測で、ホルムズ海峡封鎖の可能性は少ない、と見立てていた(How Trump and His Advisers Miscalculated Iran’s Response to War: NYT 2026, March 10)。
いずれにせよ、この政権によって打ち出される大胆な方向性や政策は、トランプ発案、担当官庁後追い型が多く、再三の繰り返しになるが、政策打ち出しの前にリアクションの考察や反動への対応が、予め検討されることは殆どないのではないだろうか…。
結果、トランプの打ち出す大胆な、粗さの目立つ政策、それは当然、社会の中にリアクションを生み、そうした或る意味での悪影響を是正するため、以後、個々の局面での、対処療法的諸策が次々と発出されざるをえなくなるのだ。
第二の方向性、つまり政策へのリアクションが大きくなり過ぎ、始末に負えなくなると、トランプ大統領は昨日までの言動などかなぐり捨て、全く新しい問題に焦点を当てようとする傾向について…。
上記マイケル・ウオルフによると、トランプという人物は、外部に自己承認を強く求めるタイプ。言い換えると、常に先頭に立ちたがり、目立ちたがる。
彼のそんな性格を端的に表したのが、第一期政権初動時の2017年4月(9年前)、中国の習近平主席をフロリダの別荘に招いての昼食会の時のトランプのパーフォーマンスだろう。彼は習主席を招いた昼食会出席のため、ワシントンからフロリダに飛行中の大統領専用機からシリア爆撃を指示したという。
そして昼食会の終りかけのデザートの時間、空爆成功の報を受けるや、その成果をデザート食中の習近平に伝え、彼を驚かせたとか…(拙稿2025年7月8日“交渉という名の強要、トランプの米国にどう対応すべきか”参照のこと)。その時のトランプの鼻高々の様、目に見えるようではないか…。
そして、このようなトランプの成功体験が、二期政権初動時、今度はイランの核施設空爆で再演される。更に、そうした世間が驚く力の行使は昨年末のベネズエラの大統領拉致→ニューヨークへ搬送という、どう見ても国際法上問題と思われる出来事として再現される。そうしたトランプ大統領の“人を驚かせる決定・行為”の背景には、ウオルフが記すような、極めて強い、対外アピール癖(自己承認欲求)があるのは間違いあるまい。
***米紙Washington Postによると、トランプ大統領が自己のTruth Socialで書き込んだメッセージの末尾に、”Thank you for your attention to this matter”と書き込んだ回数が、昨年一年間で190回を超えたとのこと。ポスト紙は、こんな表現の多用ぶりにも、トランプの自己承認欲求の強さを見て取っている様子。
***注目すべきは、例えばベネズエラ大統領の処遇についても、結局は司法に最終決定を任された形になっていること。先例の相互関税の場合と同様、仮に米国の裁判所の判決が、トランプ政権にとって不都合なものとなった場合、どうするのだろうか…。
相互関税の場合は、その種の関税賦課権限は大統領にはない、というのが連邦最高裁の判示の趣旨だった。この最高裁判決を受け、トランプ政権は“既存の通商法などの権限に基づいての関税賦課に切り替える”方向を打ち出しているが、通商法のフレームでの関税賦課なら、それなりの事前手続きと被害調査が必要になるわけで、その種の手続き・調査・発動にも、多大な人手と時間、更には合理的根拠が要ることを考えれば、“相互関税”を、別の権限を根拠にして、実効上、引き続き維持するのは到底無理ではないのか…。
そうなると、相互関税の後始末と収拾に社会や経済は混乱し、下手をするとトランプの初動の決定(大統領権限に基づく相互関税発動)そのものに、一層大きな批判の嵐を招きかねない。そうした可能性を避けるには…。直近のイラン空爆は、そんなタイミングで為されている。つまり、別のテーマに関心を移さねばならない、トランプなりの理由があったわけだ…。
***以上のような見方から、再びトランプ自伝を読み返すと、「私は物事を大きく考えるのが好きだ」、しかし一方、「私は融通性を持つことで、リスクを少なくする…一つの取引に臨む場合、必ず5~6の手段を用意しておく」との個所を見つけた。その件では、「交渉には、ハッタリも必要」とも記述している。
そんな連想でいると、直近のNYT紙は、Trump’s Next Target: “Taking Cuba”と記述していた(March 17, 2026)。事実、米国の年初以来の原油遮断作戦によって、キューバの国内電力供給は減少の一途。
3月中旬には遂に全国規模での停電に追い込まれている(FT March 17, 2026)。更につけ加えれば、直近、ロシアの石油タンカーが、推定73万バーレルの原油をキューバに搬送中だとか…(NYT March 21,2026)。「如何なる国であれ、キューバに石油を持ち込む込む国には報復する」旨の威嚇を、トランプが発している現況下、眞か冷戦時代のケネディー政権下で起こった“キューバ危機”の再来でもあるまいが…。もしロシアが、石油をキューバに持ち込むつもりだとすれば、さぁ、どうするトランプ…。
***上記のような筆者のトランプ観と彼の行動ぶり観察と同類の、他の識者・専門家の指摘などはないだろうか…。そうすると、FT紙のラナ・フォルハー女史のコメントを見つけた(FT、Jan 30)。そこでの論述曰く「トランプは、問題意識は正しいが、それに誤った答えを出す…。
中南米の麻薬カルテルは悪の根源か…、勿論だ…。ではベネズエラの大統領を無理やり連行して、同国の石油利権を押さえるのが麻薬カルテル撲滅への途だろうか…。恐らくは違う。…世界の大半はイランの体制転換を望んでいるだろうか…。望んでいるだろう。
では、イランに武力攻撃すると脅せば、それが実現するのか…。可能性は低いだろう…」。結局、トランプ大統領は、何の解決策も持ち合わせていない。あるのは、エゴと動物的な勘、それとその場その場で相手を出し抜く才能だけだ…。イラン攻撃は、この数週間、米国内で浮上していたAffordabilityを巡る論争を、トップ・ニュースから消し去った…云々。
***NYT紙もFT紙と同じような内容のコラム記事を、トーマス・フリードマンの執筆で載せている(Trump Has No Idea How to End the War With Iran:March 9, 2026)
そして今や、周知のように、トランプ大統領の当初の楽観的イラン・シナリオは崩れ去っている。
最高指導者を殺され、その後継者となった息子も、米軍の爆撃で妻を殺され、自身も負傷させられた。亦、最高指揮官たちを爆死させられた同革命防衛隊の怒りはすさまじく、イラン国内は体制維持名目で強圧が強化され、ホルムズ海峡は閉鎖された。
これら措置は、いずれも当初、トランプの頭の中にはなかった事態の進展ぶりだったはず…。極端に言うと、トランプは、米国独立戦争時の英国王ジョージ3世と同じ判断ミスをしたのだ。独立戦争当時、英国政府首脳らは、新大陸の南部植民地は北部ニューイングランド地方よりは親英で、もし英本国軍が南部に到達すれば、恐らくは解放軍として歓迎されるだろうと見立てていた(拙書:20のテーマで読み解くアメリカの歴史:第5章)。
今回の事案に即して言うと、トランプ大統領自身、イラン空爆直後、イラン国民も米国の爆撃(イラン体制転覆に通じる)を喜んでくれているはずだと…。そんな感覚を持ち合わせていなければ、下記のようなイラン国民向けメッセージを、トランプ大統領が自身のTruth Social に投稿するはずがない。
「史上最も邪悪な…ハメネイが死んだ…これはイラン国民が自国を取り戻す唯一最大の機会だ…我々は、イランの革命防衛隊や軍、その他の治安・警察部隊の多くが最早戦うことを望まず、我々に免責を求めていると聞いている…望むべきは、革命防衛隊と警察がイランの愛国者たちと平和的に合流して、この国が本来あるべき偉大さを取り戻すために協力することを期待する…」。
こうした文章を読んで行くと、トランプ大統領がイランの統治機構の在り方を十二分に認識していたか、いささか心もとなくなる。ものの本によると、イラン・イスラム共和国の統治は、宗教的監督と共和制的制度の併存で構成されているとのこと…。
大統領や議会などの選出機関が政策形成を担う一方、宗教指導者を頂点とする監督機関が法令の内容や候補者の資格などを監督するとか…。
亦、軍隊も、国軍と精鋭18万人を擁するイスラム革命防衛隊との、実質上は2本立て。前者が主権と領土を防衛し、後者が政治体制の防衛を担う。外部から見る限り、両軍の力関係は、どうも革命防衛隊の方が強そう(ミサイルを装備しているのも、国軍ではなく、革命防衛隊だとか…)。
こんな二重の権力構造を持ち、しかも後者の力が強い。だからこそ、米軍は後者に標準を当て、その宗教的権威の力をデカップリングしようとした。
つまり、監督機関の力を削げば、事態は好転すると…。しかし、その事前の見立ては果たして正しものだったのか…。米国が病根と見立てる部位を取り除けば、事態は改善するのか…。
何千年もかけて培ってきた、イランの人々のイスラム宗教心とはそんなに表面だけのものなのだろうか…イラン側の対応の底にある宗教的価値観。これこそ読み違えてはならない要諦ではなかったか…。
トランプ大統領は、これまでにも、自身の命令で米軍にイランを空爆させたことがあるが、その際のイラン側の反撃は、当初に米国側が警戒していたものよりも、軽微なものにとどまった…。少なくとも、米側にはそう見えたのではあるまいか…。つまり、彼らも思い切った反撃をする自信がないのだと…。
だが、もし仮に、そんな判断がトランプ大統領の頭の片隅に残っていたとすれば、それは彼がイランの宗教を知らないためではないのか…。
中東には古代からのハンムラビ法典がある。「目には目を、歯には歯を…」で知られる同害報復律である。つまり、不当に攻撃されれば、同程度の被害を加害者に与える程の報復は許される…。言い換えると、過度な報復は駄目だと…。
だからこそ、以前のイランの報復も、その程度に抑えられていたのではないのか(勿論、イランの力量の限界もあっただろうが…)、果たして今回の米軍の攻撃を、イラン側はどの程度の被害と見做すのだろうか…。
宗教的最高指導者や軍指導者、或いは革命防衛隊のトップを含む多くの幹部を殺され、小学校が爆破され多くの子供たちも死んだ。主要な建物も爆撃され、カーグ島のなけなしの石油施設も破壊された。こうした一連の被害を誇り高いイランがどう受け止め、計測するのだろうか…。
そして、それと同程度の報復を米国に仕掛けて来たら…。米軍に基地使用を許容している中東諸国向け攻撃は勿論、自軍の指導者を暗殺された事例などからは、米側軍人などを標的とする行為等も、今後発生しないとは限らないではないか…。イランのホルムズ海峡閉鎖も、そんな同害報復の尺度で慎重に測って、可能性として、事前に備えておく必要があったのではないのか…。
いずれにせよ、トランプ大統領の対イラン強硬姿勢が後述の諸理由で、次第に軟化し始めている今、私見では、停戦がもし可能なら、それはイランが、彼ら自身の尺度で停戦しても良いとの判断を下す時、つまりは、停戦が恒常的な意味で、イランの体制維持を保証する、そのためには停戦内容が、米・イスラエルの対イラン攻撃への抑止となると、イランが判断したとき以外にはありえないと思われるのだが…。
しかし、そんな合意は、体制転覆を目論んだトランプ大統領の当初の意図に反するし、何よりも、イスラエルが許容するはずはないのでは、とも…。
世界の石油消費量の2割が通過する、ホルムズ海峡閉鎖の影響は一気に顕在化した。以下では、米欧メディアの、イラン開戦以降の記事をランダムに列記して、米国社会がどんな反応をしているか、を一瞥する便としてみよう。
イラン空爆への支持率:”Poll: A majority of Americans opposes US military action in Iran”(National Public Radio; march 6, 2026)石油価格の上昇が中間選挙に影響:“Gas, Oil prices worry GOP as Trump floats taking over Strait of Hormuz” (The Hill Report, March 10, 2026) …Republican Sen Rand Paul said” Midterm will be disastrous for Republicans”
トランプの岩盤支持層からもイラン戦争反対の声:“Joe Kent, the director of the National Counterterrorism Center, resigned over Iran War” ( The Hill Report March 18, 2026)…Kent’s resignation is shining a spotlight on divisions within Trump’s MAGA coalition.
イラン戦争を機に、中間選挙で民主党優勢の方向へ(特に下院):“Cook Political Report rates 189 House seats as solidly Democratic, eight seats as likely Democratic and 14 seats are Democratic leans, for a total of 211 Democratic seats. It rates186 seats as solidly Republicans,16 seats likely Republicans and 4 as GOP leans, for a total of 206 Republican seats…18 seats, meanwhile, are in COOK’s “toss up “category, with 14 of those occupied by a Republican and 4 held by Democrat. A party needs 218 seats for a majority in the lower House.
上院での民主党優位の確率は…。メイン州とノースカロライナ州で共和党現職を破る可能性が出て来ている。しかし、その2つが仮に取れても、民主党が上院で多数派になるためには、2024年大統領選挙でトランプがdouble digitsで勝利を勝ち取ったレッド州の、少なくとも2つで、共和党候補を降さなければならない(注目州はジョージア、ニューハンプシャー、ミシガン、ミネソタ、テキサスの5州。特にテキサス州では、民主党側の自信が強まってきているらしいが…):As for the Senate, where Republicans hold a 53-47 edge, 34 seats are up for grabs. 4 seats, 2 each held by Republicans and Democrats, are in Cook’s “toss up”, but Democrats are optimistic about state Rep. James Talarico’s chances in TX。
要は、イランのホルムズ海峡閉鎖によって、米国民が最もセンシティブに反応するガソリン価格が目に見えて上昇し始め、それと同時に、トランプ支持派のMAGAグループ内から、「イランが本当に米国にとって脅威か」、「同国の抑圧体制打破と言っても、所詮は他国の内政問題」、つまり、「イラン戦争は、トランプ大統領のAmerica Firstの誓約に反している…」等など、トランプの違約を責める声が大きくなってきたのだ。
***筆者が散見した情報の中だけでも、共和党議員(上下院の所属を問わず)でガソリン価格の上昇が11月の中間選挙に悪影響を及ぼす、と懸念を公言した議員は、上院院内総務のJohn Thune (SD)をはじめ、Rand Poul(KY)、Chuck Grassley(Iowa), Lisa Mukowski ( Alaska )、Thomas Massie(KY)、Tony Wied (Wis)、Shelly Capito (West Va)等かなりの数に及んでいる。
そうした大声での懸念合唱の背景には、直近NBC NEWSが実施した世論調査結果が示すように、トランプ大統領の物価・インフレ対策への支持率が36%・不支持率が62%という、有権者の厳しい眼があるわけだ。
つまり、ここにきてトランプ大統領が自身の関心を、国外から国内に転じなければならなくなっているのも、国内政局が彼にとって急速に悪化し始めているからに他ならない。
***生活物資の値上がりは、政府統計の物価上昇率よりも、肌身感覚的には高そうである。National Public Radioは本年1月、Everyday low priceの標語を唄い文句とするWalmartのジョージア州の郊外店での、食材店頭価格を2024年末と2025年末で対比、この間の政府統計では消費者物価は2・7%上昇したことになっているが、NPRがチェックした商品群のバスケット平均価格ベースでは5%上昇していたと報じている(2026年1月14日)…Almost half the items on NPR’s shopping list got more expensive in 2025, including shrimp, Oreo cookies, Coca-Cola, Dove soap, Some price increases, notably on items made in China and Vietnam, appear to be tariff related. Other price hikes had to do with weather events affecting harvests of crops such as cacao and coffee beans…。
そして、機を見るに敏なトランプ大統領の事、上記のような国内情勢変化を見据えて、対イラン戦争への言い振りも180度変わって来る。明らかに戦争を停戦しても良い、そんな意向が見え隠れするようになってきた。
体制転換を主張していた当初の目標は今や言及されず、他方ではイランの核兵器開発能力は破壊したと、戦果を誇る、そして3月16日(月曜)には、「停戦のための交渉の門戸は開いている:open to talks with Iran」と述べるに至る。尤も、その発言の後半部分では、「我々は誰と話せばよいか知らない」旨の発言を付けているのだが…(NYT, March 16,2026)。
イランの行政監督の任にある、宗教指導者達をデカップリングしたのは米国だから、大統領の「交渉相手がわからない」との発言、むしろ筆者などは、今となっては「本当に誰と話せばいいのかわからないのだろう」と納得…。
しかし、トランプは役者。そんな心境変化を、対イラン“強硬姿勢の継続”で覆い隠そうとする。国防総省は、直近、インド太平洋軍所属の海兵隊を中近東に派遣、同地域に展開中の米中央軍の管轄下に配する措置を取った。
国防総省は亦、米本土サンディエゴに常駐する海兵隊2200余と強襲揚陸艦USS Boxerを、同じく米中央軍の配下に組み入れるべく、中東に派遣した(3月20日、The Hill レポート)。Boxerの派遣は、米軍のイラン上陸を想起させるもの…。
加えてトランプ大統領は、ホルムズ海峡の開放をイランに迫り、48時以内に封鎖を解かなければ、イラン国内の発電所を爆破すると公言するようになった。
こうした措置を見て、米議会の共和党の議員たちは、一方ではトランプ大統領の対イラン強硬姿勢を支持する姿勢を余儀なくされながら、他方では、それに不同意を示す米国有権者にも配慮しなければならない、微妙な立場に置かれている。
上院軍事委員会に所属するJoni Ernestr(Republican ;Iowa )共和党議員などは、大統領のこうした措置はイラン側への牽制のためであり、大統領はメディアの関心を惹くのが好きなのだと発言し、大統領と議会共和党の双方の立場を弁護する。
一方、別のTVで、「カーグ島占拠に、それら増派部隊が使われるのでは…」とのアンカーの質問に、共和党下院議員のMike Haridopolos(Fla)やPete Sesions(TX)等は、“Boots on the Ground”とは、文字通りに全領土占領を意味するというのが歴史的含意、カーグ島だけの軍事占拠は経済安全保障のためで、Boots on the Groundには該当しない等など、あまり説得的でない議論を展開する程…。こうした議員心理は、米国の有権者がイラン国内に米軍兵士を送り込むことを避けたがっている、そんなムードを直截に反映するもの。
筆者なりに今、外野席から改めて連邦議会内の情勢を見渡すと、ひと頃は鉄壁であったトランプ大統領の共和党内グリップも、次第に綻びが目立ち始めている。
例えば、少し前(関税に関する最高裁判決が出る前)になるが、下院は2月11日、大統領が、違法薬物Fentanylがカナダから密輸されているとの論拠で、カナダに課していた関税をキャンセルする内容の、民主党提案の決議案を賛成219票、反対211票で可決した。
上院は昨年10月、同内容の決議案を採択済みだったのだが、下院も遅ればせながら、上院に歩調を合わせたのだ。下院にとっては、トランプ大統領への初めての不同意表明だった。何故今になったのか、謂わずと知れた中間選挙の年に入ったからである。
***勿論、トランプ大統領が、この対カナダ関税キャンセル決議案が議会から送付されてきても、当然に拒否権を発動すると表明していた。且つ、上下両院とも、大統領拒否権を覆すに足る3分の2の決議案支持票が存在しなかった。
つまり、そんな状態での下院の決議も所詮はゼスチャー。それでもこの民主党提案の決議案に、共和党下院議員6名(Thomas Massie/KY、Don Bacon/Nebraska, Kevin Kiley/California, Jeff Hurd/Colorado, Dan Newhouse/Washington, Braian Fitzpatrick/PA)が賛成に回ったのだ。
そして、こうした自党議員の造反にトランプ大統領は激怒、自身のSocial mediaで“Any Republican, in the House or the Senate, that votes against TARIFFS will seriously suffer the consequences come Election time, and that includes Primaries!”と恐喝的言葉を投げつけていた。
この内、保守派のMassie議員は後日、トランプのイラン攻撃時にも、「この行動は、AMERICA FIRSTではない」として、民主党提案の「攻撃には、議会の承認を求めるべきだ」との決議案に、共和党議員としては唯一人、賛成票を投じている。
恐らく、同議員は共和党の中でも、トランプの各種行動に、保守派の立場から最も明確に反対を表明した議員。
しかし、自分の言うことを聞かない、党内異分子をトランプは許さない。直近、時間を見つけて、わざわざケンタッキー州に出かけて、共和党予備選でMassie議員と戦う形になっている同党内の対立相手の応援に行っている(KY予備選は5月19日)。
そんな共和党内の、自身の影響力低下に対し、トランプ大統領は巻き返しに出始めた。3月初旬の、フロリダでの共和党議員たちとの集会で、「2月11日に下院が採択した、Save America Act法案(SAV)を上院も採択しない限り、それ以外の如何なる立法案にも自分は署名しない」と言い放ったのだ。言い換えると、そういう言い回しで、上院にSAV採択への圧力をかけたのだ。
SAVは、正式には”Safeguard American Voter Eligibility America Act”。その内容を煎じ詰めれば、連邦の選挙法を修正し、投票時に市民であること証明する政府証明付きの写真や米国パスポート、出生証明を添付しての軍籍証明等などを提出することを義務づけるというもの。
更に、当該証明書記載事項と、例えば結婚などで名前が変わっている等の内容不一致がある場合に備えて、州当局にその不一致を証明する手続きの制定を命じる等々。
これらの内容には眞に、選挙に際して投票資格のない人間が、数多く投票したため、自分の選挙が盗まれたのだとの、2020年大統領選挙敗北時にトランプが提起した問題を、遅ればせながら「そうだった」と認めさせる、謂わば、トランプなりの個人的意義付けも認められるもの。
尤も、その本質は、来るべき中間選挙対策で、「民主党に投票しそうな有権者を排除しようとするもの(民主党側推計で、同党支持票が2000万票も失われる可能性がある、とか…)、それ故、上下両院での多数派をこれまで同様維持しようとの、共和党側の意図を具現している」と、民主党側は断言する。
内実を言えば、上院共和党内には、この法案採択には,トランプ大統領のもう一つの思惑が含まれるとして、その案に乗ることを躊躇する動きもある。
それは上院にのみ認められているフィリバスター制度の無効化。
フィリバスターとは、上院審議に際し、「議員は発言を指名されれば、どんな長い質問をしても構わない…しかし、上院議員16名が討議打ち切りの動議に賛成し、それが全議員(100名)の5分の3(60名)の支持を得れば、討議は中止される」というルール。
このフィリバスター・ルールは、下院が民意を代弁する機関だと位置付けられているのに対し、上院は州代表。それ故、米国独立時の各州の利害調整弁として、州代表の上院議員には、質問権さえ議会から得られれば、自州の利益擁護のため、十分な時間を当該議員に与えるとの、建国の父たちの英知が込められている歴史的な代物。このルールは、議会多数党や行政府にとっては今や非効率として、トランプ大統領は自身のアジェンダ追求のために、なくしてしまいたいのだ。
***筆者などは、フィリバスターと言えば、大好きな米国映画Mr. Smith goes to Washingtonを思い出してしまう。Lewis Fosterの「モンタナから来た紳士」という本を基に、フランク・キャプラが監督で取った映画。
田舎出の朴訥なボーイスカウトの指導者が、先任連邦上院議員の死去で、州知事に後任に任命されて、何もわからないままにワシントンに送り出されたが、そこで同州選出のもう一人のボス議員の企みを知り、フィリバスターを使って、その悪巧みを阻止する話。筆者はこの映画で、Smith役のジェイムス・スチワートが好きになった。
***フィリバスター擁護の動きは、バイデン大統領時代、少数派だった共和党上院で一時期盛り上がったが、時は変わり、現在では、少数派に転じた民主党内でフィルバスター絶対擁護の声が強い。議員たるもの、立場が変われば主張も変わる、その典型例のような話。
更に事情をややこしくするのは、トランプ大統領がこの下院採択のSAV法案に、当初なかった郵便投票の規制やtrans-genderへの反対規定などを、上院審議に際して付け加えようとしていること。
ここまでくると、こうした上院共和党案がそのまま上院を通過するとは誰も思わなくなり、その目的が、選挙を前に保守派の受けの良い条項を案に挿入することで、民主党が必死にフィルバスターで対抗する。そんな対立構図を現出させ、選挙を共和党保守派候補たちに有利に展開させたい意図が見え見えとなる。
唯、そうするためには、民主党に力の限りフィルバスターをさせねばならない。自分の意向を、議会共和党議員たちがどれほど真剣に実現させようとするか、トランプ大統領はそれを見ている。
このSAV法案の上院審議を提起する共和党提出の動議は、3月17日、共和党議員51名の賛成、民主党議員47名並びに1名の共和党議員(Lisa Murkowsky :Alaska)、計48名の反対、共和党議員(Tom Tills; North Carolina)1名の棄権で、辛うじて採択され、局面はいよいよ上院での本格審議に移ることになった。
民主党はフィリバスター・ルールを使うだろう。フィリバスターを止めさせる60票が共和党に無いので、民主党がSAVの採択を阻止しようとすると、結局、フィリバスターをし続けなければならない。それを共和党側は、支持者たるMAGA層に見せつけ、選挙の際には自党候補への投票の誘因としようとする。そうした戦術を上院共和党が展開すること自体、結局はトランプ向けのパーフォーマンスでもあるわけだ。
***勿論、動議には賛成したが、最終的には法案採択には反対の共和党上院議員もなお数名いると推測され、最終的にはこの案は、上院を通らないとみる向きが多いのだが…。
高市訪米を迎えた、米国ワシントンの政治は概ね上記のような状態だった。トランプ大統領のイラン戦争は、今やそもそもの相手の最終意思決定権者が誰なのかも不鮮明になり、亦、日々の戦況も不安定で停戦の兆しはつかめない。
つまり、トランプの手詰まり感は拭えない。ホルムズ海峡への軍船派遣を英国やフランス、ドイツは明確に断った。では日本は…。世界の関心はそこに集まった。脚光が当たっていたのだ。
そんなタイミングでの高市訪米。日本中が、高市総理が上手くやってくれることを期待しながら、成り行きを凝視していた。
しかし、上述のように、トランプの方にも、各州での予備選が本格化し始める中、イラン戦争の影響で原油価格が上昇するなど、気になる内政案件が目立ってきていた。
そうした時、高市首相が、具体策はあいまいさを保ちながら、米国の危機に際して日本が寄り添う姿勢を強調、更に、他国に比して飛び抜けた規模での対米投資案件を持参し、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」という、今のトランプの、恐らくは琴線に触れるような言葉を口に、ワシントンにやって来た(Japan is Backという表現は、こんな時には良くフィットしているように思われる)。
何かしら期待を持たせながら、少なくとも対立的言葉を控える、そんな女性指導者として…。先の映画のタイトル風に言うと、”Mrs. Takaichi comes to Washington”といった処か…。
実際の首脳会談で、話がどこまで具体的に出たのかは知らないが、事前にベッセント財務長官が「日本には世界最高水準の掃海艇と機雷探知能力がある」とテレビで発言している位だから、そんな情報は事前のブリーフィングで大統領には当然に入っていたのだろう…。今すぐ護衛艦派遣は無理としても、それなりの期待は米国側にもあったのだ。
しかし、それにしても、「そんな発言を国防長官や国務大臣がするのなら兎も角、なんで財務長官がするのよ…」、と筆者などは思ってしまう。と同時に、日本は(トランプへの影響力から見て)、この財務長官を味方につけ続けるべきだとも…。
第一次安倍政権が、外遊する際に経団連ミッションを随行するようになった時、筆者はそのメンバーに加わることが出来た。その随行中、安倍外交が成功する様を見て、外交の成功には①タイミング、②会談で提起する良質の材料(概念、ビジネス・投資機会)、③相手との相性、④印象に残る“言葉”、そして⑤運、が必要だと痛感した。
今回の高市外遊も、外野席で観戦していると、この5つの要素が満たされていたように思料される。この日本の指導者には、ツキが回ってきている。
後は、誓約した投資案件に出来るだけ多くの日本の中小企業(大企業既存の系列外からも)を参画させる余地を創り出し、日本製造業復活の一助とする仕組みを随伴させることではないだろうか…。この点、一抹の不安が未だ残るが…。
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