鷲尾レポート

  • 2026.04.07

トランプ一族の宗教観と同ファミリー・ビジネスのサウジ・コネクション~際限のない公私混同ぶり~

トランプ大統領はイスラエルを強烈に支持している。あれほど騒がれた相互関税もイスラエルには課せられていない。何故か…。

幾つかの理由が考えられる。例えば、国内の有力なユダヤ系票田、或いはユダヤ系の多いマスコミ、更には米国の伝統的イスラエル支持の政治風土等々。しかし、私見では、最も大きく効いている要因は、次の二つではないか…。

一つは、今やトランプの岩盤支持層の中核ともなった南部福音派の教義。二つは、トランプ直系の一族が今やほぼ全員がイスラエル(ユダヤ教にも…)に関連するようになっている事実

先ず南部福音派の教義だが、モノの本によると、福音派は、プロテスタントの中でも特に、聖書の中の神の言葉を最も重視するらしい。言葉は象徴ではなく、そのままの意味で理解し、実践すべきなのだと…。

つまり、実践重視であるだけ、社会や政治への関心が高い。トランプ大統領は、この種の行動主導的なキリスト教徒の強い支持を得ている。要は、それだけ票田としても強力・強大だということにもなる。

そしてこの福音派が強力にイスラエルを支持している。何故か…。そこには聖書の終末予言が効いているとのこと…。これもモノの本によるのだが、聖書の世界観では、ユダヤ人がイスラエルの地に戻り、そこで国家を起こすのだとか…。

そういう眼で観ると、ユダヤ人が聖なる地であるパレスチナに戻り、イスラエルを建国(1948年)したのは、神の予言通りで、聖書の終末予言をかたくなに信じる信徒たちにとって、イスラエルは、聖書の言葉が実現した、それ故、その現実は守られねばならない、つまり、信徒たちにとっては、神からの重い宿題となっているのだとか…。

かくして、イスラエルの安全保障問題は米国にとって、最優先の外交課題と位置付けられるべきだと…。

二つは、トランプ一族が今や、全員がユダヤ教と関連するようになっている事実。離婚歴のあるトランプ大統領には、最初の夫人の子供としてドナルド・ジュニア、長女イヴァンカ、次男エリックが、二人目の夫人には娘ティファニーが、そして三人目の夫人メラニアには男子バロンがいる。

そして、最初の夫人の子供たち3人はいずれも、ユダヤ人と結婚している。ユダヤ教徒から生まれた子供たち(つまりはトランプの孫)は必然的にユダヤ人と見做される。それ故、トランプの、この3人の子供たちから生まれた孫は、必然的にユダヤ教徒となるのだとのこと…。

とりわけ、その子供3人の結婚の中でも重視さるべきは、娘イヴァンカのユダヤ人ジャレッド・クシュナーとの結婚だろう。

クシュナーは、正統派ユダヤ教徒として育った。そのクシュナーが父親チャーリーの不動産を相続して間もなく、経営不振に陥っていたニューヨーク・オブザーバー紙を買収した。この買収で、新聞社のオーナーとなったクシュナーは当時25歳、一躍ニューヨークの社交界で脚光を浴び、それがトランプの娘イヴァンカとの結婚に結び付くことになる。

そしてイヴァンカは、結婚を機に自らユダヤ教に改宗する。

いずれにしても、そんなクシュナーに、第一期トランプ政権発足直前、アプローチしてきた中近東の要人がいた。それがサウジアラビアの皇太子Mohammed bin Sakman(MBS)だった。サウジアラビアでは丁度その頃、国の近代化議論が起ろうとしていた。

石油依存からの脱却である。MBSは、この潮流に乗ろうとしていた。トランプが第一期政権を発足させたのはそんな時だった。MBSはだから、トランプ政権に取り入ろうとした。

では、誰にアプローチすればよいのか…。目を付けたのがクシュナーだった。

そしてクシュナーも亦、発足したばかりの義理の父親の政権の中で重要な役割を果たすべく、虎視眈々と目を凝らしていた。

かくして、MBSとクシュナーの思惑は一致する。結果、第一期トランプ政権、第二期トランプ政権でともに、中近東、具体的にはイスラエルとサウジアラビアを重視する政策が打ち出されたのには、そんな裏があるからだった

第二の問題に移ろう。

トランプ自身と、今やサウジアラビアの実質的統治者Mohammed bin Salman(MBS)皇太子との関係に興味を持っていた筆者は、直近のNYT紙(2026年3月24日)上に、妙な記事を見つけた。

そのタイトルは”Saudi Leader Is Said to Push Trump to Continue Iran War in Recent Calls”。

その記事の概要は、3月16日の週中に数回持たれたMBSとトランプ大統領の電話会談で、MBSが「米国・イスラエルの対イラン軍事行動は、イランの強硬派政権を破壊する可能性があると言う意味で、中東の政治状況を作り直す“歴史的な機会”であり、だから、このタイミングでの停戦は間違いで、ここまで来た以上、イランのエネルギー・インフラを攻撃して、テヘランの政権を徹底的に弱体化させるべき」というものだったとか…。

こうした助言に対し、トランプ大統領は原油価格の高騰の可能性を挙げ、それが経済に打撃を与える点を心配だと資したらしいが、MBSは、それは一過性のものに過ぎないと楽観的な答えを返したとのこと。同記事は更に、MBSは「米国はテヘランの政権を倒し、エネルギー・インフラを確保するために、地上軍を派遣すべし」とも助言した、とか…。

「この時期、トランプ大統領の発言は、戦争をまもなく終了させるという方向のものと、戦争は今後もエスカレートするというものの間で揺れ動いていた」。そんなタイミングに、この記事に拠れば、サウジの実力者が戦争の継続をトランプ大統領に助言したということになる。

***妙なのは、この記事がもっぱら、the people briefed by US officialsから得た情報を基に書かれている点。普通ならこんな時、The people who are on the condition of anonymityと書くはずなのに、情報源の書き方が違う。つまり、筆者はこの情報源の記述の違いから、この記事は、トランプが戦争を止めようとしている時点で、サウジアラビアの実力者が、むしろ戦争を継続しろと助言した、そんな米国内政治面でのトランプ大統領の立場擁護の意味合いが強い、ある種のリークではないか、と推察するのだが…。

***この会話の内容の真偽を問われた、ホワイトハウスのKaroline Leavitt 報道官は、大統領の私的会話にはコメントしない、と答えているが、今の米国では、こんな重要な会話も私的なものとして片づけるのかと、半分呆れ、半分笑ってしまいそうになった。トランプの意向が全ての面でこの政権の向き先を決めているのが、この女性報道官のコメントに如実に表れているからだ。

尤も、筆者がこの記事に注目したのは、眞にトランプとMBSの密接な関係が、この電話のやり取りの中から伺い知れるのではないかと思うからなのだが…。

そういった両者の親密ぶりを示す記事を、筆者は亦、昔のAP電のファイルの中から見つけてしまった(Trump`s business ties to Saudi Arabia run long and deep:2018年10月13日)。

尤もこの記事は、2018年に発生した米紙Washington PostのコラムニストJamal Khashoggiが、トルコのサウジ大使館でMBSの護衛達によって、むごたらしく殺害された件についてのもの。

トランプ政権は同事件を外交案件として取り上げず、結局はうやむやにしたのだが、その際に、AP通信は、トランプ大統領のサウジアラビア王室との密接なビジネス関係を取り上げていたのだ。

当該の記事曰く、「1991年、不動産業者トランプは破産に瀕していた。

それ故、窮余の一策として自分保有のヨット“Princess”をサウジの大金持ちAlwaleed bin-Talal皇子に2000万ドルで売却して、急場を凌いでいる。数年後、同皇子は再びトランプの苦境を救う。トランプ所有の赤字ホテルだったPlaza Hotelを、他の投資家との合同出資ではあったが、3億2500万ドルで買い取ったのだ。

加えてトランプは、2001年にはTrump Tower の45階部分の全フロアーを1200万ドルでサウジアラビア王国に売却している。

更にその後、トランプが2016年大統領選挙に出馬する直前、The Trump Organizationがサウジで展開する8件の投資計画を公表している。(尤も、これら8件は、トランプが第一期政権を成立させた直後、いずれも計画撤回の手続きを取ってはいるが…)。

亦、このAP記事によると、トランプが大統領に就任した後も、トランプ所有の豪華ホテルに、サウジ関係者が大挙宿泊するのが常となり、同ホテルのマネージャーによると、2018年3月には、MBS一行が同ホテルに宿泊、その宿泊代金が同3か月期のホテルの全体売り上げの13%を占めたとのこと…。

そして2025年5月、2期目の政権の冒頭、トランプ大統領は一期目同様、外遊先に中近東諸国を選び、その訪問中にサウジアラビア(47階建て450室のトランプ・タワー)やオマーン(ゴルフ・コースや付設の住居類)、或いはカタール(ゴルフ場)、アブダビ(ホテル・タワー)などで、トランプの子供たちが経営する企業が、サウジの不動産開発業者(Dar Global社)と共同開発する、各種プロジェクトを次々と発表したのだった。

こうした各種プロジェクトを報じたNational Public Radio(2025年5月12日)は、過去、米国の大統領たちは、外遊する際には、この種の自己の関係するBusiness Dealとは一線を画してきたが、トランプ大統領になって、両者は混合されるようになってきた(Now everything is conflated)と嘆いて見せた。

そうした極め付きが、カタール訪問時に同国がトランプ大統領にプレゼントすることになったと伝わる、新しい大統領専用機Air Force One。旧式となった従来の1機を、新しくカタールから供与されることになったそれと、取り換えるのだとか…。

***NBC News(2025年 5月 15日) は亦、次のようにも報じている。

Money from the Gulf keeps coming. The latest deal included the Trump family’s
cryptocurrency venture called World Liberty Financial、It is cofounded by
Zac Witkoff, whose father is Steve Witkoff, Trump‘s special envoy to the
Middle East…
. Just days ago, an Abu Dhabi firm used World Liberty‘s
stablecoin to close a &2 billion investment into crypto exchange Binance。

この種のトランプ・ファミリーのある種の公私混同振り(少なくとも筆者にはそう見える)、書いて行くのも、何となく嫌になる…。これを亦、前記のホワイトハウス報道官Karoline Leavitt女史は、「公私混同等ではない」と歯牙にもかけないのだが…(彼女曰くIt’s ridiculous to even suggest it…)。

トランプ政権の中近東観には、単純化の傾向が根強い。第一期政権以来、トランプの頭の中には凡そながら、2重のレイヤーが描かれていたように思われる。先ず、世界を大きくは3分して考える。一つは米国が協調できる政権、二つは協調できない政権、三つは力が弱いので無視し、犠牲を押し付ければ済む政権(トランプ第一期政権暴露本:Foire and Fury;日本語版361ページ)

そしてこうした大枠の中で、米国にとっての地域ごとの対応構図が描かれる。この辺までくると、その地域構図はクシュナーとMBSとの合作的色彩が濃くなる。中近東に関しては、主役はイスラエル、エジプト、サウジアラビア、イランの4か国。後の国々は考慮しなくてよい(上記本:360ページ)。

そこでの理想的基本構図は、前3者が団結してイランと対峙するというもの。米国はイスラエルを支持し、その前提の下、エジプトとサウジアラビアには、対イラン対応上で必要なものを全部与える。そうしたフレームを構築した上で、エジプトとサウジアラビアがパレスチナ問題で交渉の主導権を取る。

極めて単純な構図だが、そうした構想が打ち出されてきたのには、米国のこれまでの政権(オバマ、ブッシュ、クリントン政権)の中東政策が結局、全て上手くいかなかったという認識がある。つまりここでも、新思考が必要なのだと…

第一期以来のトランプ政権の中近東政策が、イランを主敵に、事態を廻そうという思考が強く、その餌として、一方では米国自身が力の行使を厭わず、他方では、上記で観てきたように、金銭絡みの投資プロジェクトが多く打ち出される。

そして、それらプロジェクトの中核に中東諸国のカネとトランプの親族企業が大きくコミットしているのは、前述のような大枠構想があるからに他ならないのではないだろうか…。

しかし、こうした構想は、複雑な地域の個別国の間の関係を、あまりに単純化し過ぎている。イラン戦争を仕掛けたトランプ大統領がここにきて、或る意味、孤立無援の状況に追い込まれているのも、そう考えれば、当然の結果なのではないだろうか…。

更には、米国が仕掛けた戦争に、交渉仲裁国として、パキスタンなど地域以外の国に頼らざるを得なくなっているのも、前提として設定した枠組みでは、問題が解決できなくなったが故なのではないだろうか…。今となっては、トランプをノーベル平和賞候補になど…。質の悪い冗談だったのだろう。

***直近のFT紙は、以下のようなタイトルの記事を掲載している。

Saudi Arabia bridles at Trump’s way of waging war(2026年4月2日)。トランプのイラン演説を聞いて、あまりの無責任ぶりに、憤慨しているといった処か…。

レポート一覧に戻る

©一般社団法人 関西アジア倶楽部