直近のニュースから読み取る、2026年米国中間選挙の実態
暴走する米国のトランプ大統領に幾ばくかでも歯止めがかかるかどうか、その試金石ともいえる中間選挙まで実質5か月を切った。
選挙に向かう今の米国で何が起こっているのか…。ここ数日のニュースなどを参考に、及ばぬまでも、筆者なりに見どころ5点を取り出してみた。
それを推察させてくれる格好の記事がNYT紙に載っていた(2026年5月23日:Trump Pushes Ahead on Politically Unpopular Ideas)。
世論調査での支持率1が、第2期政権発足後で最低水準にまで落ちている。米国内で不人気なイラン戦争への対応でも、停戦だと言ってみたり、更なるイラン爆撃を敢行してみたり…。
2期目就任後、ほぼ完ぺきと目されていたトランプの共和党内掌握にも陰りが出始め、特に直近、トランプ政権提唱のAnti-Weaponization Fund2や不法移民対策費要求3等に対しては、議会共和党からも反対意見が続出した。
更には、ホワイトハウスの地下に豪勢なホールを建設する計画のための、既予算の流用4、その流用を違法だと指摘した上院事務局の責任者【女性】を解雇(後日、議会は彼女の復任を承認)したり、加えて、従来のケネディー・メモリアル・センターの名称に、あろうことか自分の名前を追加する、名称変更5を試みたり…。
***直近6月2日公表のNYTの全国ベース調査1では、トランプ支持率37%、不支持率58%だった。
***Anti-Weaponization Fund2・・・・・・$1.8ibillion:Trump Organizationと、その事実上の代表者であるトランプ親子が、自身の納税記録などが不法にリークされたとして、財務省並びに内国歳入庁を提訴、その和解の一環として、司法省が、政府組織が米国人攻撃のための武器として使われないよう、検証と補償のために、新たにFundの創設を決定した。
しかし、世論は、この和解そのものが、不必要な程に原告(トランプや同関係者)に有利になっている点や、この新設されたファンドが2021年1月6日の連邦議会占拠事件などで逮捕されたトランプ支持者たち(後にトランプが恩赦)への補償支払いにも充てられるのではないかと批判。
そんな雰囲気の中、バージニア連邦地裁が、同ファンドからの支出を暫定差し止め、更に、マイアミの連邦地裁も、そもそものトランプが提訴した案件の、一からの洗い直しを判示していた。
そして6月2日、こうした2つの裁判の判示を前に、司法省は、恐らくはしぶしぶ、バージニア地裁の差し止めに従う意向を表明。いずれにせよ、この2つの裁判結果は、議会民主党や一部共和党議員たちの、新設のこのファンドへの反対姿勢を一層勢いづかせた。
結果、6月2日、トランプ政権はこのファンドの廃止を正式に表明する羽目に追い込まれた。
***不法移民対策費3・・・・・・$72billion:トランプ政権は、2026年に入り、不法移民の国外追放目標を100万人と設定、そのための一時拘留施設の増設などの予算を計上、それが議会での大きな火種となっている。
***ホワイトハウス地下の大ホール建設のために既予算を流用4・・・・・・。$400million。
トランプ大統領は、この点に関し、自ら解雇した上院の管理・運営の事務責任者(女性;支出は違法だと指摘)を議会が復任させたことについて、「共和党は彼女の復任を容認し、我々を虐げている“brutalize”」と不満の意を表明した。こうした状況で、本件トランプの目論見成就も次第に困難なものに…。
***Kennedy Memorial Centerの名称をDonald Trump and John F Kenedy Memorial Centerへと変更5…。
ワシントンの連邦地裁は、この名称変更に対し、2026年5月29日、「1964年の、議会の同センター建設承認は、明白”crystal clear”に、暗殺されたケネディー大統領(当時)の名を付すよう規定しており、その名称変更は議会だけが為しうると判示、行政府の独断だけで、一方的な名称変更は出来ないとして、2週間以内に、名称を元に戻すよう判示した。
それに対し、Burgum内務長官はトランプの名前削除に抵抗していたが、これも6月の第2週に至り、トランプの名前を削除、元のケネディー・センターという名称に戻された。
何故、トランプ大統領は、不人気なこの種の諸計画(しかも、ほとんどが実現に失敗)を、中間選挙の年に次々と打ち出したのか…。
その答えをNYTの上記記事は、George Washington 大学のSarah Binder教授のコメントの形で、以下の様に記述する。
「トランプ大統領は昨年、“これまでは議会を余り使わなかった”、と述べたことがある…。この言葉の意味するところは、大統領は議員たちの助けを借りず、己の権限を多用して、自身が目指したアジェンダを達成してきたことを意味している…。
つまり、その考えの延長線上で推測すれば、大統領は自分がその職を離れた後も、社会に影響力を残すことを考えているのではないか…。
何のために…、それは、トランプ大統領が自らを、象徴的、且つ、歴史的な意義を持つ存在に仕上げることを夢見ているため…。トランプ大統領が昨年示した、首都ワシントンに自身のための凱旋門を建設する計画などは、そうした願望の典型だろう。
もっと具体的に言うと、彼は自身の個人的レガシーに焦点を当てている…、彼は、自身がこれまで被ってきた、それ故、世間が彼に与えてきた諸々の苦難に対し、自分の輝かしい存在を誰も否定できない形で残すことで、自身を認知させ、世間に復讐したいのだ…。
彼は、その意味では、通常の政治家が一様に求める、立法業績など端から欲していない…。
それ故、自身のAgenda立法を成功させるための、議会共和党の上院多数確保(確保されることに越したことはないが…)など、本心では、必要と感じていないのだろう」と…。
***上記Binder 教授の日本語訳は、多分に、筆者の主観に基づいている。元の英語は以下のようなもの。He has focused on his own personal legacy. He has focused on vengeance. He doesn’t have a legislative agenda. So, does he really need a Republican Senate?
***上記のような見方は、共和党内にもじわっと浸透してきているようだ。米国議会についての情報誌Politicoは、そうした状況を“Republican squirm as Trump pursues legacy, control and revenge”と題してレポートしている(2026年5月22日)。
「トランプの個人的野心が、結果として、共和党の党としての達成目標アジェンダや議会に於ける多数派確保を妨げ始めており…、同党議員たちを動揺させている云々…」。
そして最直近(6月4日)では、ワシントンの情報誌AXIOSは、「上院共和党院内総務のJohn Thune 上院議員(サウス・ダコタ)が、微妙に、しかし間違いなく、トランプ大統領と距離を置き始めた」と記述するようになった。”
“The shift over the past few weeks has been subtle but unmistakable”
トランプ大統領は、2月28日のイラン開戦直後、8分間のビデオ演説を公表、“our objective is to defend the American people by eliminating imminent threats from the Iranian regime”と明言した。
その録画の中で、大統領は具体的に、①イランのミサイルと同製造産業を葬り去り去る。②イラン海軍を根絶する。③イランに支援された中東のテロリスト勢力を打破する。④イランが核兵器を保有するのを阻止する。⑤米国の攻撃が終われば、イランの人々は“Regime Change”を実現して、自分たちの政府を取り戻せるなど等、イラン戦争着手で何を達成したいのか、その目的を明示していた。
こうした諸目的を達成したという実績を以て、来るべき中間選挙に臨む、そうした思惑があったことはまず間違いあるまい。
だが現実は……。
米国が“壮絶な怒り”と名付け、イスラエルが“獅子の雄叫び”と呼んだ、米国・イスラエル共同の対イラン戦争は、開戦以来3か月を経ても、トランプ大統領が当初鮮明にしていた、上記5つの目標を完遂したとは言い難いだろう。
***最近ではむしろ、国内の政治情勢との絡みで、イランとの停戦を否応なく強いられているトランプ大統領。その形振り構わぬ妥協姿勢に危機感を覚えはじめたイスラエルのナタニエフ首相。この両者が、意見の不一致を露呈させている。
亦、ホルムズ海峡の現実を観れば、トランプは、これまでは国際海域故に、領海主張や、況して領海内航行料の徴収など公言できなかったイランに、今後、そのような、領海内通行への対価要求の主張を公言させる端緒を与えてしまっている。
更に、今後の交渉の成り行きによっては、オバマ政権が達成していた水準以下の核合意しか達成出来ない事態に終わる可能性も…。
万が一、そんな結果に終われば、交渉上手を自任してきたトランプの面目丸つぶれ(だから、そんな下手の妥協は絶対に出来ないはず…)。
いずれにせよ現状、ホルムズ海峡封鎖により、世界への原油供給は途絶し、米国内ではガソリン価格の高騰や、それに伴う物価上昇が有権者の最大関心に浮上、そうした状況が、否応なく、トランプ大統領に事実上の戦争状態凍結、つまりは事実上の暫定停戦を余儀なくさせていることは、すでに記述の通り。
***トランプ政権は6月1日、鉄鋼やアルミ、銅などの輸入関税を現行の25%から15%に引き下げると、突然発表した。
これなどは、筆者の邪推だが、これまでの輸入関税引き上げやイラン戦争などで肥料や農業用機械、冷暖房装置などの価格が上がってしまい、農民や一般市民の生活に支障が出始めたので、中間選挙対策のために、慌てて、このような措置を取らざるを得なかったのではないか…。
いずれにせよ、上記のような状況下、米国とイランは現状、パキスタンとカタールという交渉仲介国を介して、実務者同士の、謂わば、間接交渉をしている模様(NYT2026年5月26日:A Draft US-Iran Plan Is Said to Be on the Table. Here is What to Know)。
しかし、私見でしかないが、この種の間接交渉、果たして米国・イラン双方が、交渉メモのそれぞれの文言を、共通の解釈で理解しているか等、意思疎通の面で、どの程度真意を通じ合わせているか、はなはだ疑問。
亦、米紙報道などによると、現時点に至っても、米国側交渉者たちは、イラン側の最終意思決定権者が誰なのか、未だ“完全には“掴んではいないのでは…、との疑念すら出ている…。
そして、上記NYTが伝えるような、米側、イラン側それぞれの交渉者に近い筋からの情報に基づく記事などを読んで感じる印象は、当初の合意はたとえ実現しても、それは所詮、現在の事実上の暫定停戦を、何はともあれNon-Aggression的な約束事のフレームの中に閉じ込める作業にしかすぎず、その有効期間もせいぜい60日程度。
そして、その入り口の合意すら、例えばホルムズ海峡の封鎖を、米側はイランが先に解けと主張し、イラン側は米側も同時に解けと主張するなど等…。
細かいところでは、実質、未だ埋まり切ってはいないのではないか…。そして、こうした諸々は、最終的にはトランプ大統領の鶴の一言で決する(逆に言えば、鶴の一言で瓦解もする)。
***亦、上記のような、この種の些末な違いは、Non-Aggression合意の大枠が決まれば、後は、直ぐに話が着くのかもしれないと思える反面、こうした些末な合意に達することが出来ないことこそが、基本の大枠合意を妨げる、一番の大敵だ、との指摘もあり得る。
そこまで考えると、要は、交渉当事者間に、どの程度の信頼醸成が為されているかが大いに効いてくるのだろうが、浅学な筆者の目には、米国・イラン両国の間には未だその種の信頼関係が出来ているとは、とても思われない。
いずれにせよ、この当初の暫定合意は、その合意期間中に、より実質的な交渉を取り纏める、そうした次の段階への入口に過ぎない。そして、その第二段階の交渉が亦難問。
しかも、この第一段階の交渉が長引けば長引くほど、米国・イラン双方が、交渉進捗の少なさ故に不満が高じ、何らかの機会に再び交戦に至る、そんなリスクも高まる道理。
***NPR ニュース(2026年5月31日)は、そんな一例を以下のように報じている。“American aircraft fired on a number of Iranian sites over the weekend, including on Qeshm Island in the Strait of Hormuz…Iran responded by firing on a US military base….Despite these volatile conditions, President Trump said on Truth Social that “Iran really wants to make a deal” and told Americans to “just sit back and relax, it will all work out well in the end”。
しかし、トランプ大統領のそのようなコメントとは裏腹に、米国・イラン両国間の、この種の叩き合いはその後も散発的に続いている。
尤も、そうした双方の不信増幅への危機感が高まる中、イランの対米不信を緩和させる妙薬として、米側はイラン向け投資ファンドの設立案を持ち出した模様。このアイディアは元々、中東特使のSteve Witkoffとトランプの娘婿Jared Kushnerが提案していたもの。
彼らは不動産業者丸出しの発想で、テヘランに不動産を建設する発想だったらしい。その発想に、イラン側が当初から主張していた“米軍が破壊したインフラへの補償要求”が結びついたのだろう。
最終的な合意が成立した暁には(つまり、単なる手続き上の暫定停戦合意ではなく、核合意を含む、文字通りの停戦協定が成立する際)、この投資ファンドの内容も詳細が詰められることになるのだという。
だが、それでもトランプ大統領が開戦当時に明言していた、肝心の主要目的たる“イランの核保有を阻止する”は、ルビオ国務長官説明では、第二段階の主要テーマだとのことだが、しかし、これこそが眞に難問。
その先行きは深い霧の中といってよい(筆者私見では、その交渉の成り行きを、恐らく、北朝鮮が固唾を飲んで見守っているだろうが…)。
いずれにせよ、イラン戦争を巡る、こんな中途半端な状態を憂い、憤っていたのは議会民主党議員たち(一部共和党議員たちも…)。
議会は独立記念日で休会入りしていたが、その間に選挙区に戻っていた民主党議員たちは、地元支持者たちのトランプ政権の遣り方への不満を十二分に聞いてワシントンに戻ってきたはずだ。
加えて、米国内でジワリと物価上昇への不満が高まってきている。
ガソリン価格は言うに及ばず、トランプ関税による輸入品価格の上昇が、漸く米国の、その種商品を使わざるを得ない農民や漁民、製造業者などにも波及して来ているからだ。
英紙FT(2026年5月31日)は、そんな実情をメイン州のロブスター漁民等を取材して、次のように伝えている。“Over the past year, the state’s lobster fisherman have been hit hard by the US president’s tariffs and rising fuel prices…the same can be applied to blueberry fields and forest operations, where widespread unhappiness with tariffs and the spiraling costs of fuel and machinery are setting the scene for a ferocious political showdown in November’s midterm elections “
***付け加えておけば、こんな不吉な予想(米国農務省推計)もある。「2026年の米国小麦生産量は、1972年以来の不作で、1.56bbillion bushels。この量は2025年比で21%の減少」…。「小麦価格の上昇は、各種サプライチェーンを通じて、米国の食品価格を今後一層上昇させるだろう」…。
独立記念日休会で選挙区に帰り、たっぷりと有権者の不満を聞いてワシントンに帰ってきた野党の議員たちは、この1年半の間、トランプ政権の一方的政治手法に何ら有効な対抗手段をも見いだせず、加えて、己の選挙区の不満声の累積…。それ故、彼らは否応なく、鬱積感を抱いて議会に戻ってこざるを得ない。
休会明けの米議会で、そんな野党議員たちの不満を真面に浴びせかけられたのがルビオ国務長官兼国家安全保障担当大統領補佐官。彼は、立て続けに4つの委員会で証言するよう、議会に呼ばれた。
その冒頭(6月2日)は上院外交委員会。ネットでその映像を観ていると、席上、多くの民主党議員たちが、イラン戦争、台湾問題、エボラ出血熱、トランプ大統領によるカリブ海などでの密輸船爆沈問題など等を、矢継ぎ早に問題として取り上げ、ルビオ国務長官に激しい言葉を浴びせ続けた。
中間選挙を真じか控えに、今まで蚊帳の外に置かれていた議会の鬱積が一挙に爆発した如くに…。
この事例から推察するに、恐らく今後、内政担当の省庁長官も議会に呼ばれるたび、野党からの厳しい追及に直面することになるはずだ。
***以下は、現状入手できる米国各州の世論調査結果の中で、トランプ大統領支 持率が、前述で紹介した、全米平均の数字37%より低かった州をランダムに抜粋してみたもの。(今後の、中間選挙を観る際の、一つの参考として…)。
カリフォルニア26%、コネチカット29%、ハワイ19%、メリーラン ド23%、マサチューセッツ25%、ニューヨーク28%、オレゴン28%、ロードアイランド29%、バーモント19%、ワシントン27%。その大半は、米国の西と東の海岸沿いの州。いずれも民主党優位の州。
コロラド32%、デラウエア31%、ジョージア37%、イリノイ33%、 メイン33%、ミネソタ35%、ニューハンプシャー32%、ニュージャージー32%、ニューメキシコ32%、バージニア35%。中西部諸州や東海岸の一部大州。これらの州での選挙の帰趨がどうなるか…。共和党候補がどれほど踏ん張るか…。
第三は、中間選挙に絡めて、トランプ大統領の、共和党内で自分の意向に反対する議員たちを追放しようとする動きについて…。
トランプ大統領が、自分の意向に従わない共和党現職議員を、それこそ選挙の度ごとに追放してきたことは、今や隠れもない事実。
その手法は、党内予備選のシステムを活用、現職議員に挑戦する党内挑戦者の側を支援し、時には自らも応援に当該州にまで出かける。亦、自分の手元にはある豊富な選挙資金を、当該挑戦者のために潤沢に使う。
そんな手法で、これまで幾多の共和党現職連邦議員たち、そしてさらには、その下の州議会議員たちまでをも、粛清してきた…。要するに、連邦・州を問わず、共和党現職議員たちにとっては、トランプに睨まれると、何をされるか、本当に怖いのだ…。
尤も、そうした事情の背景には、現職に挑戦して世に出て“上院・下院議員になりたい病の患者”が多数いる実態が横たわっている。
そして、そんな手法をトランプは、2026年中間選挙に際しても、排除しようと思う議員がいれば、その標的議員に容赦なく用いているのだ。米国議会専門誌Politico(2026年5月23日)は、その実例を次のように記述する。
“President Trump underscored lawmakers’ long-simmering fears that rather than helping bolster their political standing by focusing on economic issues and touting key policy wins, Trump was instead weakening their chances come November through his preoccupation with personal projects and a wide-ranging retribution campaign…… In just recently Trump celebrated the ouster of GOP Sen・Bill Cassidy(Louisiana), who his allies had poured funds into primarying as revenge for voting to convict Trump in his impeachment trial five years ago. The president then endorsed against well-liked Texas Sen・John Cornyn…… “
***要するに上記記述は、トランプがルイジアナで共和党現職のBill Cassidy議員を排除し、テキサス州の共和党現職John Cornyn上院議員も排除しようとしていると報じているのだ。
テキサス州の顛末を記しておけば、結局、トランプがCornyn議員の挑戦者でMAGA派のKen Pasxton州司法長官支持を表明、政治資金面でも支援したため、現職Cornyn議員は敗退の憂き目を見ている。
上院の上記2人の議員をやり玉に挙げたのと同様の手法で、トランプの追い落としにあった下院議員は数知れず…。例えば、下院の中でもトランプ批判の急先鋒だった、ケンタッキー州共和党のThomas Massie 下院議員もその一人。
そして狙った標的を敗退させたら「すぐ次を…」とばかり、トランプ大統領はMassie下院議員を追い落としたその日、直ちに次の新たな標的の名を挙げた。それは、ペンシルバニア州のBrian Fitzpatrick共和党下院議員。トランプの言いざまが亦、凄い。
トランプはBrian 議員のことを何と言ったか…。曰く、“He likes voting against Trump”。嫌みの一言に尽きる言い草ではないか。
第四は、今季中間選挙を念頭に、トランプ大統領が2期目再選直後から練り拡げてきた、連邦下院議員の、各州内での選挙区線引き修正計画について…。
既存の選挙区の線を引き直し、共和党支持者の多い新しい選挙区に編成、以て、当該州からの共和党選出連邦下院議員の数を増やそうという目論見。
共和党の牙城テキサス州で先ず着手し、成功裏に導入を決め、それを手始めにミズーリー、ノースカロライナ、オハイオ、テネシー、ルイジアナ、アラバマ、フロリダ等で、共和党多数のそれぞれの州議会が、その種、共和党側に有利な選挙区調整マップを採択済み。
しかし中には、インディアナ州のように、共和党の全国委員会(トランプの意を受けた)の方針を知りながらも、選挙区の線引きに恣意性を持ち込むことは良くないとの考えで、共和党議員たちが、新たな選挙区地図採択に反対した州も出て来ていた。
具体的に、事の推移を概観すると、インディアナ州下院は、新種の選挙区地図の採択に賛成したが、州議会上院の共和党議員たちの過半が反対に廻り(40名の同州共和党上院議員の内、21名が反対、同法案に反対していた民主党全議員10名と合流した)、結局、同州では、この共和党21名の造反で、トランプ肝煎りのプロジェクトは拒否され、トランプの思惑は頓挫する。
***尤も、インディアナ州共和党上院のこうした抑制には、直前に民主党支配の バージニア州が、裁判所の違法判決を受け、民主党側に有利な選挙区調整を抑止したという、政治タイミング上の問題も働いていた。
つまり、1964年公民権法の基本精神を守るためには、その様な恣意的な選挙区調査はやめるべきだとバージニアの裁判所が判断、その判断に同州の民主党議会が追随した…。インディアナ州共和党上院議員たちも、その範に従うことを“善”としたのだ。
しかし、トランプはこうした造反を許さない。
自分の意を受け入れない州共和党が、譬え一州でもあれば、その様な例外が結局、自分の威を傷つけ、やがて全州が言うことを聞かなくなるかもしれない、トランプは恐らく、そう考えるのだ。
それ故、トランプの、“報復”は、インディアナ州議会での造反を主導した、州共和党の指導者にも向けられることになる。
具体的には、5月初旬に開催された、同州議会議員選挙の候補者絞り込みを目指した予備選に、トランプ大統領は、圧倒的資金力と政治力に物を言わせて本格介入。
新マップ導入に反対した共和党の州上院議員21名の内、重大戦犯と見做した幹部7名を標的化、その内の6名に対立候補を擁立、結果、現職5名を落選させている。言い換えると、トランプに標的視されながらも、生き残れたのは僅か1名だった。
何故、トランプは連邦下院議員の選挙区調整を、それほどまで熱心に繰り広げるのか…。
勿論、こうした選挙区修正で、下院の共和・民主両党の勢力伯仲を、少しでも共和党有利な方向に転換させる、そんな目先の、現実的目的故であることは間違いない。
しかし、そんな打算は表に出さず、実施の際には、あくまでも保守派の論理を前面に出す。曰く、「1960年代に全盛を迎えた“民主党リベラル派主導の、選挙制度における少数人種保護”は、黒人やヒスパニックに必要以上の厚遇を与えるもので、白人にとってはむしろ逆差別だ」と…。
そして、こうした保守派の考え方が、「1964年の公民権法に反するか否か」の問題として、幾つかの州で提訴の的となり、ルイジアナ州とアラバマ州の新選挙区マップが、それぞれ別々に連邦最高裁にまで上がり、いずれも違反していない、との判断が下されたのだ。
そして、こうした判決が当然に、南部諸州全体に、黒人・ヒスパニック等優遇選挙区を見直すべし、との政治的ムードを一層強く醸成することになる。
この連邦下院議員選挙区調整問題で、強調しておくべきは…。
それが2026年中間選挙時の特殊案件に留まる、とは決して言えないということ。南部での共和党側の一連の選挙区修正の動きを受け、民主党側もカリフォルニアなどで同様のゲリマンダリング的選挙区設定を実行する構えを見せているが、そうした両党の対立が一層激化すると見られているのは、むしろ2028年の大統領選挙時。その頃には、トランプはもういないだろうが、民主党側は、全米ベースで、本格的に下院議員の選挙区調整を、その時までに終了させる方針らしい(既に、ニューヨーク、ニュージャージ、ワシントン、オレゴン、コロラド、イリノイ、メリーランドの民主党の影響力の強い7州が、2028年に向けて、そうした動きを始めている)。
民主党側がそう出るならば、南部や中西部のレッド州でも、同じように選挙区調整に励むことになるのは目に見えている、とういうのが米国の専門家筋(バージニア州立大学のKyle Kondik 研究員)の見方。
このような連邦下院議員の選挙区を、少数人種の過剰保護の是正という言葉で捉える共和党側の視点自体が、そうした過剰優遇だとの批判をまともに受ける黒人やヒスパニック有権者(彼らは民主党離れの傾向を示していたが…、最近では、トランプの諸々の政策で、大きな打撃を受けていた)の民主党支持への回帰に繋がり始めている。
***この点で注目されるのは、前記第三の項で記述しておいた、トランプのテキサス州共和党現職のJohn Cornyn上院議員追い落としとその後遺症。対抗馬に立てた州司法長官Ken PaxtonはMake America Great Againの強烈な信奉者。おまけに各種スキャンダルの持ち主。
その彼が、民主党候補になるJames Talarico州下院議員と対抗する。そこで予想されるテキサス州選出連邦上院議員選挙の構図は、MAGA派の右翼対融和を説く新しいタイプの左翼。
その選挙の構図に、民主党への支持回帰が見られ始めた、黒人票やヒスパニック票がどう作用してくるか…。
加えて、醜い離婚争いというスキャンダルを抱えるCornyn候補に、女性票がどう動くか…。そんな状況を、NYTは”A Blue Texas May Be More than a Dream for Democrats” (2026年5月27日)というタイトル記事で紹介している。
第五は、トランプのホワイトハウス内に、争点管理の機能が全くないこと…。
筆者は、仕事柄、1970年代末期からの米国の歴代政権をウオッチする僥倖に恵まれてきた。民主党カーター、共和党レーガン、ブッシュ、民主党クリントン、共和党ブッシュ・ジュニア、民主党オバマ、共和党トランプ、民主党バイデン、そして再び共和党トランプ。そんな経験からはっきりと言えるのは、歴代政権には、いずれもしっかりとした争点管理を司る政権内中枢機能があったという事実だ。
大統領首席補佐官、大統領国家安全保障問題担当補佐官、場合によっては、レーガン時代のカリフォルニア人脈からなるキッチン・キャビネット。或いは、ブッシュ・ジュニア政権時のチェイニー副大統領など等、そうした陣容、もしくは大統領以外のキーパーソンが、争点管理の重大な機能を担っていた…。
だが、第二期トランプ政権には、その機能が全くない。
首席補佐官のSusie Wiles女史は、元々はトランプの秘書係のような仕事をしていた女性だし、現在は、癌の治療に専念している模様。国家安全保障部局は解体状態で、国家安全保障問題担当補佐官はルビオ国務長官の兼任。
そのルビオ長官は、バンス副大統領と共に、トランプ大統領後継の立場に、或る意味、呈よく持ち上げられ、謂わば、トランプの手中で踊らされている。Stphen Miller次席補佐官は、1985年生まれ、第一期トランプ政権で登用されたが、入り口はスピーチ・ライター。
人によって評価は様々だが、どちらかというと反移民の過激論者のようにも見え、とても全体を束ねる大役を果たし得るとは思えない。
何故、第二期トランプ政権は、歴代政権に比べて、争点管理の面で変則なのか…。
答えは明瞭である。トランプ自身が、第一期政権の人事の失敗に懲り、敢えてその種の機能を“意図的に”設けなかったからである。
もし、仮にそのような機能があれば、自分の発想や計画がホワイトハウス内で容易にブロックされてしまう、そんな可能性をトランプは恐れ、政権発足当初から、注意深く、その種機能の導入を避けてきた。そして、そうした機能の欠落が、逆に、政権内でのトランプ専制を可能ならしめているのだ。
そして、このホワイトハウス内のチェック機能の不備が(というよりは、トランプが自らの意思決定の自由を確保するため、そうしたチェック機能を意図的に外したのだが…)、行政府と立法府与党内、その双方での専制権者たる大統領という、極めてまれな事態を引き起こしているのだ。
嘗て、NYTが(その時、筆者はコピーを取らなかったので、日付とタイトルは忘却してしまったが…)、「米国建国の父たちは、知恵を絞って、行政・立法・司法の三権が、互いにけん制し合い、以て専制権者の登場を阻止する仕組みを考案した」とされるのだが、「行政府内で今のトランプのような、既存法律を軽視し、予算執行のルールを無視し、既存の政治慣行を歯牙にもかけない、そんな指導者が、しかも併せて、立法府の与党をも完全に牛耳る事態を、想定も出来なかったのだ…」、と指摘していたのを、今、鮮明に思い出す。
トランプは、そうした意味で、Check and Balanceを旨とする、米国統治システムが登場を想定していなかった、鬼っ子的指導者なのだ。
2026年は中間選挙の年、内部に争点管理能力を備えた通常の政権ならば、与党の勝利に寄与するように、慎重に争点を管理して行くはずなのだが、トランプの発想は全くその逆だった。
前記一で記したような特異な発想(政党よりは自分)、前記二で記述したような、選挙の直前だったからこそ、国内受けする戦争Showを演出してみる、或る意味のShowmanship。
前記三で記したような、選挙の機会に党内の異分子を排しようとする性癖、そして前記四で記した、民主主義の根幹ともいえる選挙制度を、自党の下院議員の数を増やすための道具に使う、そんな隙を観て利を得ようとする精神など等…。
1966年、米国の外交官だったウイリアム・ブリットと心理学者フロイトの二人が書いたとされる、”Thomas Woodrow Willson; A Phycological Study”と題する本が米国で出版された、パトリック・ヴエイユという米外交官だった人物と心理学者フロイトの共著だという。
その内容は、第一次大戦で勝利し、意気揚々とパリのベルサイユ講和会議に出て行ったウイルソン大統領が、フランスのクレメンソーや英国のロイド・ジョージなどの欧州の猛者政治家や、米本国の議員たちの、ある種抵抗と障壁に遭って、自ら持っていた平和条約の理念や国際連盟創出の夢が破られて行く。
そんな心理的葛藤を描いた本だという。
こうした心理的診断を、色々と問題はあるだろうが(米国には、実際に診断していないのに、当該人物の精神構造を分析することは、倫理に反する、というルールがあるそうだが…)、今のトランプ大統領に応用して、誰か分かり易く解説してくれないだろうか…。
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