鷲尾レポート

  • 2026.09.10

増大し続ける財政赤字、押し止めようとする政治意志の欠落~Shoot oneself in the foot~

国際通貨ドルへの信認

直近、米国のベッセント財務長官の言動や政策決定に注目が集まっている。

本年8月初旬、同長官は、1998年以来28年ぶりとなる、日米両国政府の円買い協調介入に踏み切った。更にその後には、残存期限10年を超える長期国債を買戻し償却する方針も表明している。

***厳密に言うと、2011年(15年前)の東日本大震災の際にも、日米協調しての為替介入があったが、あの時は文字通りの天災対策だった。今回の様な通貨価値の下落を阻止する介入とは性格が異なる。

いずれにせよ、それらの決定についての同長官の説明は極めてシンプル。

前者については、「円の著しい過小評価についての日本の是正努力を支持するため」、後者については「現在の金利上昇や利回りは、米国経済のファンダメンタルズを反映していないため」だという。

そんな財務長官の決定を、トランプ大統領は無邪気に、「同盟国日本への友情の証」だとか、「米国の高金利是正のため」だとか、色々と理由付けてはいるが、結局のところ、それらは皆、大統領たる自分の主張を実現させるための決定だ、との自賛。

今回の協調介入は、欧州中央銀行の暗黙裡の了解の下、ユーロ売り・円買いという異例の手法に加え、韓国銀行のウオン買い、ドル売り介入を随伴させたという(日本経済新聞“大機小機”欄:2026年8月5日)。

そして、こうした米国主導の動きに欧州を同調させ、亦、韓国をも従わせ、当の日本に感謝させる…。要は、それらの付随効果にこそ、9月にはワシントンで中国の習主席と会い、亦、しかるべき時期に北朝鮮の金主席との直接会談実現を目論んでいる、中間選挙を控えたトランプ大統領にとっての“心地良さ”があるのだろう。

経済的措置の裏に、トランプ大統領の政治的目的が、それこそ、これ見よがしに丸出しになっているではないか…。

言い換えると、今回のベッセント財務長官の一連の措置は、「米国債を売らずに済ませ、以て米国内での金利上昇を予防しながら、ドルが異常に高くなるのを阻止する」という点に在るのだが、交渉性癖の強いトランプ大統領の眼には、こうした手法が齎す、欧州や韓国、日本を従わせる政治的な副次効果の方にこそ、より強い快感があるのでは…

筆者なりの表現を許してもらえば、それこそがベッセント流のトランプ操縦術の極意なのだ。

だがトランプ大統領のそんな目論見とは別に、実際には、今回のベッセント財務長官の決定を、国際政治・経済の専門をもって任じる英国のFT紙は、その永続効果を”Treasury market interventions are only a band-aid”(2026年8月25日)と容赦なく切って捨てている。

亦、同じFT紙は、上記記事に先立って8月初旬、「世界中で緩む財政規律」と題する、経済コメンテーター・クリス・ジャイロス記者の論考を掲載、概要次のように記述していた。

「…エネルギー危機が深刻化した本年5月、各国の対応は迅速で、6月中旬までの集計では、ショックを和らげるための支援策が世界170の国で計900件近く実施された…その多くは、ガソリン価格を抑制するための補助金支給で、これはエネルギー危機の最中に、燃料を節約するインセンティブを逆に削ぐことになる…、更に、一度実施すると、終了させて元に戻すことも難しい…。つまり、この種の措置は、問題が起きれば政府は借金をさらに増やし、それにより膨らんだ財政赤字や公的債務の始末を、結局は将来の政権に押し付けるだけのことではないのか…」。

「米国では1990年代から、こうしたやり方が常態化している。フランスやドイツの政府も、こうした支援策の必要から、従来の財政規律を大幅に緩める措置を取るに至っている…。日本は食料品にかかる消費税の税率を引き下げる一方、官民で戦略分野に巨額の投資をする方針を明らかにしている…」。

「…2010年には、IMFの推計では、先進国の公的債務残高のGDP比率は94%。新興国のそれは37%だった…それが2026年になると、前者が108%、後者でも77%にまで上昇してしまっている…。2010年代には、世界の金利が低く、政府借り入れを増やしても、案ずることはないと見られていた…。ところが現在では、ウクライナ戦争、イラン戦争などで、世界の安全保障環境は不安定化の度合いを増し…、気候変動も激化し…、それらへの対策は急務となっている。…結果、各国政府は経済が厳しい時には、積極的な財政支出を繰り広げ、好況期になっても財政黒字を計上するのではなく、むしろ緊急性を増す他分野での対策を進めるため、歳出の縮小には至らない…。加えて、政治が有権者に迎合する形で、財布の紐を緩めて減税するようにもなっている…」。

「…こうした財政規律を緩めるメガトレンドは持続的で、財政への圧力は高まり続けるばかり。…残念なことに、そうした状況に、きちっと向き合おうとする国が殆どないのが現状なのだ」と…。

いずれにせよ、上記FT紙の指摘を背景に、前述ベッセント財務長官の取った諸策を見直してみると、結局は、米国自身の過去何十年に渡る、これまでの財政支出拡大抑止の不備を、今頃になって、奇策奇手で、繕おうとしているに過ぎないようにも見えてくるではないか…。

問題の根源は、国債の過剰発行によるマーケットのドル離れなのだ、と…。

米国の、米国による、米国のための制度

第二次世界大戦に勝利し、西側自由主義経済の総本山と化した米国は、ライバル・ソ連との競争に勝つため、西側の勢力圏に組み込んだ世界の途上諸国に積極的な投資を行い、それら諸国の工業化に助力、そこで生まれた生産力で製造した途上国商品を、自国市場を解放して輸入の形で積極的に受け入れる措置を取った。

要は、米国は、大規模な資本を援助や投資の形で先行実施し、先ずは途上国側の財貨輸出能力を高め、労働集約的商品を米国の市場に輸出させ、米国自身の完全雇用状態への物価・労働力不足対策とするとともに、途上国に、その輸出で稼得した外貨(ドル)で以て、今度は米国製品を買わせる、そんなシステム(ブレトン・ウッズ体制)を構築したのだ。

そして、このシステムの下では、今日的視点から見ると、貿易と金融とは平和裏に共存していた。そして、この平和共存を保証していたのが、ドルと金の兌換保証(金1オンス=35米ドル)だった。

***1980年代初頭、フランスの社会党政権下、首相府官房副長官を務めたジャン・ベイルルヴァッド(後にクレディ・リヨネ銀行会長)は、この金とドルとの、固定相場での兌換性こそ、貿易と金融の平和共存を担保する仕組みだった、と記述している(世界を壊す金融資本主義:日本語版2007年初版)。

本拙稿での主たるテーマに即して言えば、裏返しの見方となるが、上記のような米国主導の国際経済・貿易を管理する仕組みに大きな風穴を開け、米国経済に今日の様な大量の国家負債を齎した、その役割を担った米国指導者達(いわば犯人)、それが共和党の三人の大統領(ニクソン,レーガン、トランプ)ということになるのではないだろうか…。

ニクソン大統領の役割

先ずはニクソン大統領(1969~74年)の役割から…。

この大統領の時代に、前記の貿易と金融との平和共存が崩れ去った。その破綻の原因こそ、ベトナム戦争に深入りし過ぎて被った、米国の財政赤字の急増だった。

ベトナム戦争に深入りしたのは民主党ケネディー・ジョンソン政権だったが、そのバターと大砲の両方を狙っての、政府の能力を超えた歳出増は、やがて、後継の共和党ニクソン時代に、一気に財政赤字拡大現象を齎してしまったのだ。

翻って、米国の財政収支の歴史的推移を観ると、1960年代、既に基調は赤字だったが、その規模は、年毎に差はあるが、赤字幅30億ドルから80億ドルの範囲に概ね収まっていた。

そんな毎年数十億ドル程度の、米国の財政不均衡も、ニクソン時代に入ると、ベトナム戦争に深く嵌まり込み過ぎた米国経済に、不況時の物価高(スタグフレーション)が重なり、彼の就任3年目の1971年に至ると、財政赤字の規模が、一桁上の段階(1970年の28億ドルの赤字から、71年には約230億ドルの赤字)へと、一気に拡大してしまう。

だから、こうした状況への対応として、1971年8月、ニクソン大統領は輸入品に10%の課徴金を賦課する措置を緊急導入、併せて、賃金・物価凍結令を発出、更に加えて、ドルと金との兌換停止措置をも打ち出すに至る。

つまり、国内での緊急対応措置を実効ならしめるため、米国通貨の価値保証ともなっていた金との兌換を停止するという、ブレトン・ウッズ体制の基軸機能を一時停止させる措置(結果的には、永久に崩壊させてしまう)を講じたのだ。

そしてこの措置が、以後、米国政府の財政赤字抑制制約を取っ払うことになる。

***この金・ドル交換停止ショックは、4か月後にはスミソニアン協定の締結を齎す。この協定で、世界は変動相場制に正式に移行した。言い方を変えると、各国政府は自国の財政赤字の代償に、自国の通貨を安売りするようになったのだ。

***ニクソン政権発足時点の米国の国家負債(国債発行額)は3540億ドル、同退任時のそれは4750億ドル。ニクソン政権は在任期間に国家負債を約1210億ドル増やした計算になる。今日の数字、例えば第一期トランプ政権最終年(2020年度)の国債発行総額約27兆ドルと比較すると、なんと少ない数字であることか…。

その後の、この数字の天文学的増大は、それだけ米国の財政赤字がこの間に累増・累積し、亦、その間の金利が累積され続けてきたことを意味する。

つまり、こうした負債の激増は、“複利の世界”の恐るべき実態をあからさまにしてくれる

***1960年代末、筆者はまだ大学生だった。その頃、国際金融論の授業に出ていると、確か新庄博教授だったと覚えているが、次のように語っていた。「日本人は金がドルの価値を支えていると思っているが、米国人はドルが金の価値を支えていると思っている。そうでなければ、ニクソン大統領があんな措置を講じるはずがない」と…。

人生長くなると、その時々で、妙に印象に残る、そんな言葉があるものだ。

Government Is Not A Solution, But A Problem

次いでレーガン大統領(1981~89年)の話に移ろう。

正式の大統領就任直前、レーガンは概要以下のような内容を米紙WS Jに投稿している。曰く「米国の有権者は遂に、政府の飽くなき資金吸収本能と歳出増大指向が、慢性的インフレの基本原因であることを理解し始めた…蜘蛛の巣のごとく張り巡らされた法律や政府規制が、政府の租税政策と相まって、民間部門の資本形成を阻害し、米国の生産性の基礎を掘る崩すことになった…政府と言っても、それが統治する社会構成部分より賢明であるわけがない…これが私の基本的現状認識であって、統治者が非統治者より賢明である等とは信じられないのだ…政府こそ諸悪の根源であり、問題解決の手段などでは決してない…」。

そして、こうした政治信条の下、打ち出されたのがレーガノミクス。

その具体的内容は、小さな政府を齎すための4手法、即ち、①歳出削減、②減税、③規制の緩和、④誰もが予測可能な人為性を排した金融政策だった。

本拙稿のテーマである、財政赤字との関連で、特に特記しておくべきは①と②であろう。

第一期レーガン政権は1981年、Economic Recovery Tax Actを成立させたが、その中で大幅な減税と歳出削減を達成した。例えば個人所得税減税を例に取ると、従来細分されていた課税所得の区分数を大幅に減らしたうえで、個人所得のトップ層に対する税率を、それまでの70%から、後日の何度かの減税施行で、2期目任期末までに実に28%に迄引き下げている

この種の大幅減税を、歳出カットと組み合わせることで、財政赤字幅も少なくしようとしたようだが、結果は逆に、減税による税収減が大きく響き、大幅な財政赤字を記録することに…。

***1982年度の財政収支の決算数字を観ると、1981年には約790億ドルだった財政赤字は、翌1982年には約1280億ドルにまで膨れ上がっている。更に1983年には、赤字幅は一層増えて約2080億ドルに、84年は若干減ったが、1985年には再度、凡そ2123億ドルの赤字に…。

かくして、流石のレーガン政権も、1985年以降の第2期目に入ると、こうした赤字急増に対処する必要に迫られる羽目となり、結果、1986年、「税制の不均衡を是正する」という大義名分でTax Reform Actを超党派で議会採択することに成功している(この法律で、レーガン政権は、従来52.8%だったトップ企業向け法人税を34%まで引き下げている)。

***何故、超党派での成立が可能だったのか…。議会審議の詳細を観て行けば、そこには金持ち・低所得者双方に、互いに利が合うようにとの意図の下、減税幅の多寡、更には所得区分の再編(それまで15分類あった所得区分を極端に少ない分類に改編:そうすることで、実質減税となる層、実質増税となる層の違いを見えにくくするなど等)を通じて、それぞれの利害関係層に利が分かち合えるような“見掛け”を備えるなど等、そんな政治的駆け引きの構図が鮮明に読み取れる。こうしたやり取りをじっくり観察するのが米国議会をフォローする妙味というもの。

いずれにせよ、1986年の財政赤字約2212億ドルが翌1987年には約1497億ドルにまで縮小)。

***8年間の治世で、レーガン大統領は米国の国家債務を就任時の1981年の約1兆ドルから、退任時の1988年には約2兆6000億ドルにまで増やしてしまう

前述しておいた、大統領就任前のWSJへの投稿の中で述べていた「政府の飽くなき資金吸収本能」を、結局は大量の国債発行と言う形で発現させてしまったことを、レーガン大統領はあの世でどう言い訳するのだろうか。

政府の歳入には、減税という措置で確かに歯止めはかかったのかもし れないが、結果として生まれた財政赤字⇒国債増発というルートによって、結局は市場から資金を吸い上げたのだから…。

そしてここに観られるのは、財政収支の不均衡という実態が、国債という金融商品の発行で補填され決着される仕組みの定着している様なのだ。問題は、この仕組みがいつまでも持続され得るかどうかなのだが…。

この時期を境に、金融と実物経済との間の均衡は、次第に破れ始めたと言ってよい。

***レーガン大統領の後継は、共和党ブッシュ大統領だったが、増大した財政赤字を前に、流石に手を打たねばならなくなり、レーガンが引き下げた個人所得トップ層への税率28%を、ブッシュは31%に迄、引き上げることを余儀なくされるのだが、そうした努力をしても、赤字幅はそれほど縮小させ得ていない。

減税は易く、増税は難い

1960年から共和党ブッシュ・ジュニア政権末期の2008年までの約50年弱の米国の財政収支の決算を概観して行くと、財政黒字を達成したのは僅かに5回のみ。最初のそれはニクソン政権初年度の1969年(実質的には、前任民主党ジョンソン政権が採用した最終年度予算の成果。ベトナムでの戦費調達を名目に、法人税を52.8%に引き上げたことが効いた)。

その後、財政が黒字となったのは、民主党クリントン政権2期目の1998年から2001年の間の4年間のみ。それ以外の年は全て財政赤字のオンパレードなのだ。

民主党のクリントン大統領は就任時以降、ホワイトハウス内に国家経済会議を設置し、米国の国際競争力復活に力を注いだ。その脈絡で、日本の貿易赤字を目の敵に、数値目標を掲げた通商政策などを試行したが、財政規律の復活などにも意を払い、トップ層への個人所得税率を31%から39.6%に引き上げている

そんな努力が実を結び、第二次大戦後の米国には珍しい財政黒字を4年間(1998年~2001年)に渡って実現させたのだった。

財政黒字の達成という成果を鑑みると、この政権への歴史的評価はもっと高くてもいいのではないだろうか…。

***民主党クリントン政権の跡を継いだのは共和党ブッシュ・ジュニア政 権。その8年間の統治の後は、民主党のオバマ政権となるわけだが、前者の時代には第二次湾岸戦争や世界貿易センター破壊のテロ事件などが起こり、更にはその後、金融危機が続いた。

結果、連年の財政支出も激増し、財政は再び巨額の赤字基調に戻ってしまう。

レーガン・ブッシュ(父親)時代の財政赤字は最悪の場合でも2900億ドル台だった。

ブッシュ・ジュニアの時代になると、その赤字規模は毎年3000億ドル~4000億ドル台にまで広がり、同じ財政赤字といっても、それまでとは赤字の幅が格段に大きくなってしまう。更にブッシュ・ジュニア政権の末期には、米国発のサブ・プライム金融危機が発生。

それ故、ブッシュ・ジュニア政権の跡を継いだ民主党のオバマ政権は、初年度に、約1兆4000億ドルもの、未曽有の財政赤字を出すことになる。

***ブッシュ・ジュニアの跡を継いだ民主党オバマ政権は、トップ層への個人所得税率を、クリントン時代のそれと同率の39.6%に迄引き上げた(前任のブッシュ・ジュニアが、クリントン時代の所得トップ層への税率《39.6%》を35%に引き下げていた)。

それをクリントン時代の税率に戻したわけだ。

要は、1980年代以降、共和党大統領が減税・トップ層への個人所得税率低減に動けば、民主党大統領が財政赤字削減に向け増税とトップ層への税率引き上げで対抗する、謂わば、そんなシ-ソー・ゲームが展開されてきたわけだ

トランプの時代に至り、市場が意識し始めた米国の財政リスク

さて愈々最後の財政赤字拡大犯、トランプ大統領(第一期:2017年~2020年)に話を進めよう。

ここで特記すべきは2017年Tax Cut and Job Actであろう。この法律による税率引き下げは、法人税減税(35%→21%へ)の部分は恒久的に、個人所得税減税(所得トップ層の税率39.6%→37%)の部分は2025年まで有効とされた。

この法律が施行されたのは2018年から。その結果、同年の財政赤字は約7790億ドルとなり、オバマ政権最終年の2016年の赤字約5847億ドルを約1900億ドルも上回る結果となった。

更にその赤字は、トランプ第一期政権最終年の2020年には3兆960億ドルに急増しているが、これは折からのコロナ禍のためであり、その分、或る程度割り引いて考える必要があるだろう。

***トランプ第一期政権を引き継いだ、民主党バイデン政権(2021年から2024年)は、第一次トランプ政権末期の財政赤字を引き下げるべく、連年苦労した。その成果は下記の通り。

第一期トランプ政権最終年の財政赤字3兆960億ドルの内、約1兆ドルがコロナ禍によるものだと仮定すると、バイデン政権は約2兆8000億ドルの赤字からスタートし、4年の在任中に、1兆ドル弱の赤字を削減したというべきか…。

2021年の財政赤字:約2兆7740億ドル
2022年・・・・・:約1兆3740億ドル
2023年・・・・・:約1兆6875億ドル
2024年・・・・・:約1兆8153億ドル

2025年に発足したトランプ政権2期目では、トランプ大統領が一期目に成立させた個人所得税減税の規定が、前述のように、2025年に失効することになっていたが、兎も角もそれを、失効させるのではなく、継続させる。

そんな目的で“One Big Beautiful Bill Act”の成立が目論まれ、議会は同法案を2025年7月採択、即刻、トランプ大統領が署名、正式に法律として成立した。

経済アナリストたちの見方では、この法律によって、今後10年間で、米国の財政赤字は3兆ドル以上拡大するとのこと。

そのためもあって、2026年に入り、折からのイラン戦争に拠る戦費の大幅増とも相まって、米国債を保有することに対する海外投資家の躊躇感が高まって来ている

こうしたドルへの市場の不信の高まりを、日本経済新聞(2026年8月28日)は以下のように記している。

米国の国債発行残高は8月18日、史上初めて40兆ドルを超えた。7月までの10か月間の財政赤字も対イランの戦費膨張などを受ける前の会計年度(2024年10月~25年9月)を既に上回る…」云々。

一方、同じ日本経済新聞は「外貨準備、金が米国債逆転」と題する記事を掲載(2026年6月4日)している。

同記事によると、「2025年の世界の中央銀行の外貨準備で金が27%と、約30年ぶりに米国債の割合22%を逆転/したことが分かった。

中国やインド等が米国の影響力を抑えようと米資産への依存を減らしていることや、金価格が25年に6割も上昇し、名目の保有量を押し上げたことなどが、その理由だとのこと……米国財務省のデータによると、2026年3月末の国債発行残高は約31兆ドル。

その内、世界の中央銀行や機関投資家などが保有する米国債は9兆3000億ドルで、全発行残高の30%。この比率は、米国債が最も保有されていた2008年と比べて、その保有比率は半減しているとのこと…。

米資産運用のキャピタル・グループが2026年2月から3月に実施した、世界の機関投資家調査によると、「今後とも、米国債の安全資産としての地位が低下すると観る投資家は72%にも達した」という…。

だからこそ、本稿冒頭のベッセント米財務長官の、持って回った言い回しによる、円買いの協調介入や残存期限10年を超える長期国債の買戻し方針などの奇策奇手は、上述の日本経済新聞の記事などが示唆している、世界の“ドル離れ心理”を前提にすれば、極めて分かり易いものに映って来るではないか…。

歴代の米国政府が累増する財政赤字に何ら有効な手を打たず、且つ、政権が代わる度、前の政権の努力を無にするが如く、減税と歳出増を繰り返す…。

本稿がサブタイトルに”Shoot Oneself In The Foot”(英国のケンブリッジ辞典によると、その意は“To Do Something Without Intending To Which Spoils A Situation for Yourself”、意訳すれば自業自得とでもなろうか…)を用いた所以である。

そんな国の借金への外部の目の厳しさを、日本も我が事として、自戒すべきなのだ。

補論:カリフォルニア州のProposition 40

財政赤字に悩むのは州政府とて同じ事。

そう言った意味では、2026年11月の中間選挙時に、併せて実施されるカリフォルニア州の住民投票への付託案“Proposition 40”の成り行きにも注目しておいてよさそうだ。

このProposition 40は、第二期トランプ政権誕生とともに、下院共和党から連邦議会に提出され、成立した、前述のOne Big Beautiful Act(The 2025 budget reconciliation law)が、連邦から州への各種補助金、とりわけ保険・福祉・教育関連補助金の大幅削減を規定しており、そうした補助金削減で財源を失ったカリフォルニア州の財源補填ために、一部労働組合(The Service Employees International Union-United Healthcare Workers Werst)が、「少なくとも10億ドル以上の資産を保有する在カリフォルニアの富裕層(2026年初頭に在住している)に、一過性の増税(5%)を課す」住民投票を実施することを提案、同州民主党がそれを支持する決定を下したもの。

ただ、民主党の他の労組内には異論も多く、次期大統領を目指すNewsom 知事や民主党の次期知事候補のXavier Becerraなどは、むしろ反対に廻っている。

亦、課税される側の富裕者達は、多額の資金を集めて反対運動に着手し始めた。

そうした状況は、以下の資料やNYT 記事を参照のこと。

  • Billionaire Tax Explained: What Proposition 40 would Mean for California (California Budget & Policy Center 2026年8月)
  • California Democrats Want to Tax Billionaires. They Can’t Agree on How(NYT 2026年8月3日)
  • Billionaires Prepare $87 Million AD Campaign to Block California Wealth Tax (NYT 2026年7月17日)

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